6時頃に起きた。
ゲームをリリースして精神的に一段落したので、因縁の敵を倒しに行った。約束の王、ラダーン。振り返ると、僕のエルデンリングは昨年の大晦日からずっと、DLCラスボスのラダーンだけが倒せずに行き詰まっていた。2ヶ月も同じところで停滞。こいつに勝てないせいで煮え切らず、他のゲームを遊び始める気も起きなかった。
ラダーンは強すぎる。本編ではマレニアが最強の敵として設置されていたけれど、その比でない強さだ。
第一形態にして、ローリング回避しても判定から逃げきれないことのある長い剣の攻撃リーチや、前隙・後隙の極端に短い攻撃パターンに苦しまされた。でもその強さも第二形態のお膳立てに過ぎない。第二形態では光の柱が無数に出てきて、通常攻撃のリーチや複雑さがさらに増した。ほとんど回避不可みたいなパターンが増えてくる。タイミングや判断がわずかでも遅れると当たってしまう(ほぼ全体攻撃みたいな)範囲攻撃や、即死級のダメージを容赦なく繰り出してくる。たまに大爆発もする。
もう何度やっても何度やっても、倒せなくてよおー。このラダーン戦だけ、僕が今まで遊んできたエルデンリングと体験が違いすぎるんだ。それがずっとむず痒かった。
むず痒さ。というのも、ラダーンはめちゃくちゃ強いのだけれど、倒そうと思えば誰でも倒せる敵ではあるのだ。エルデンリングは自由度の高いアクション「RPG」だから。適切な装備や戦術を用いれば勝てる。どうやら、特定の盾を構えながら刺突武器でチクチク刺して行ったら簡単に倒せるらしい。他にもいくつかラダーン戦をハックする戦い方が研究されていて、「〇〇戦法」みたいな名前つきでインターネットの攻略サイトでは紹介されていた。
そのこと———ラダーンは異常に強いボスだが、あくまで誰にでも倒す方法はあるということ———が、僕は嫌だった……。そんなふうにエルデンリングの敵を「方法」で攻略したことが今までなかったからだ。僕はこれと決めた好きな武器、好きな防具(何もつけない)、好きに伸ばしてきたステータスにこだわった自分だけのビルドで、本編ラスボスやマレニアを含め、ここまでやってきた。勘と試行回数で乗り切ってきた。なので、「その武器はやめて〇〇にしたら勝てるよ」とか「ステータスを振り直して〇〇ビルドにすれば勝てるよ」みたいな攻略情報を教えられても、なんか受け入れたくなかったのだ。今から盾を持ちだして、チクチク戦法をとるだなんてそんな、今までの自分の冒険を無下にするような邪道に頼って強いボスを倒したところで、果たして親御さんは喜ぶのかね? みたいな……。これは僕がこの手のアクションRPGに親しんだ経験があまりなかったゆえの感覚だと思う。
そんなことをね、考えながら、敗け続けていた。今日も。
結果、段階的にプライドを捨てていくことにしました。まずは自分がずっと武器として使ってきた「猟犬の長牙」を、僕の実力ではこれでは勝てないと見切りをつけ、どうやら強いらしい「血鬼の腕」という武器に持ち替えた。
それでも勝てなかったので、次はDLCにおけるレベリングである「影樹の破片」集めの作業をすることにした。攻略サイトとゲーム内のマップを照らし合わせながら。僕は隠れたアイテム集め的なちまちました作業が苦手で、ストレスで腕が痒くなってくるくらい耐え難かったのだけれど、もう僕の黄金樹を巡る冒険が本来的に耐え難いものになっていることは、受け入れることにした。人生楽しいことばかりじゃない。発狂する直前まで破片集めをして、影の地の加護を18まで上げることができた。
それでも依然勝てなかったので、結局レナラのところで産まれ直し(ステータスの振り直し)をおこなった。今までの僕は「技量」をベースに育てていたのだが、それはやめて、血鬼の腕を振るうのに最適な「筋力」と「神秘」を極端に高める方針に変えた。ノリでそこそこ高めていた「信仰」「知力」のおつむ系ステータスも、血鬼の腕ビルドにおいては全く要らないので最低値にして余剰分を筋力に捧げた。
ここまでくると、僕(ikarino)はもう別人だった。ラダーンを倒すために自分を改変すればするほど、ラダーンを「自分が」倒すという実感は減っていく……倒したときに味わう達成感や喜びも、きっと減っていってるだろう。でも、こうやって少しずつ自分らしさを捨てていく過程で、僕は不思議な精神状態に達した。仏教的といえる体験だ。
達成への執着を捨てること。自己への執着を捨てること。ミケラが影の地の各所にみずからの肉体を棄てていったように、僕もあらゆる執着を段階的に手放していった。ラダーンにまっすぐ向き合うにつれて、僕はエルデンリングそのものに近づいていく感覚があった。ゲームそのものに近づいている感覚があった。
リスポーン地点エニル・イリムから階段を登って、純血騎士アンスバッハを喚び出す。岩棘と大棘を配合した霊薬を飲んで、武器をダガーに持ち替え、それに付与した戦技「黄金樹に誓って」を唱える。武器を再び血鬼の腕に戻して両手持ちにして、ラダーン戦の入り口に入る。戦闘開始と同時にすぐさま黒き刃ティシーを召喚して、減ったFPを青の聖杯瓶で回復して、聖杯瓶を赤にセットする。この一連のセットアップ儀式を何十回と繰り返すうちに、僕は静かな精神空間へと埋没していった。
僕はもはやエルデンリングを、楽しさや気持ちよさを感じるためにやるのではなかった。クリアした自分を誇るためにやるのでもなかった。報酬アイテムのためにやるのでもなかった。僕は「エルデンリングをやるためにエルデンリングをやる」のだった。僕は「ゲームをやるためにゲームをやる」のだった。

僕はラダーンを倒した。

エルデンリング、完了。それではさようなら。