mimi doscima
おニャン子クラブの『セーラー服を脱がさないで』を聴いた。
女の子は いつでも ”MI・MI・DO・SHI・MA”
『セーラー服を脱がさないで』おニャン子クラブ
この歌詞を聴いて、僕は「耳年増(みみどしま)」という言葉をはじめて知った。耳年増、良い言葉だ。みんな、僕の知らぬところでこんなに素敵なワードを共有していたんですね。
それにしても「”MI・MI・DO・SHI・MA”」って書き方すごいな。完全に秋元康のセンスだ。秋元康は、若い女性アイドルに歌わせる詞を書くくせに、内容からおじさんの臭いを隠すことをしない。
切りすぎた前髪 奈良美智の絵だ
『ソンナコトナイヨ』日向坂46
そんな一斉にメッセージされたって・・・ Oh Oh Oh Oh 聖徳太子か!
『承認欲求』櫻坂46
異物感のあるワードを突然さし挟んでくる。若者に寄り添った語彙で書くつもりがないのは明白だ。こういうフックが秋元スタイルってやつなのかな。それとももう普通に、おじさんだから?
歌詞といえば、アニメが今めちゃくちゃ面白いダンダダンのOP曲『オトノケ』すごい好き。
映像も音楽も感動モノなのだけど、R-指定の書いた歌詞に一番食らった。『Bling-Bang-Bang-Born』の歌詞も『堕天』もそうだったけど、アニメの内容に対して誠実に、その上でそれをもみくちゃに咀嚼して広げて書かれている。Creepy Nutsは案件を乗りこなすのが上手いのだ。すごいなぁ。
……
昨日は精神が忙しかった。
今日はその余波があったので、多めに眠って回復した。そもそも昨日は31時間くらい起き続けていたから、寝るべきだった。
寝て、目覚めたあとは、学校のオンライン授業受けたりして……。
その後、ジョン・フランケンハイマー監督の『セコンド/アーサー・ハミルトンからトニー・ウィルソンへの転身』を観た。1966年だけど、あえての白黒映画。おじさんが謎の会社に背中を押され、全身整形して別の人間として人生を送り直すというミステリー? SF? この映画を観たうえでジャンルを言うなら、「星新一系」かもしれない。序中盤は、本当に美しいカットや思考がはかどる展開で夢中になった。そもそも、はじまりからヒッチコック的な違和感の熱気が漂っていてワクワクした(OPはソール・バスが監修していた)。しかし終盤は、腑に落ちる伏線回収、痛快などんでん返し、そんでもって皮肉的メッセージが浮かび上がってくる、みたいな……まさに星新一のそれのようなまとまり方をして終わった気がして、個人的にはもっと意味不明でいいのにっ。と思った。
でもまあ、たぶん星新一が有名になる以前の作品なので、当時からしたら相当斬新な脚本だったんだろう。この作品は、『カッコーの巣の上で』『アルカトラズからの脱出』みたいな、体制の抑圧や社会迎合的なシステムの下から新たな自分を見出して抜け出そうとするムーブメントを担った70年代映画の先駆けでもあるんだって(受け売り)。
締め方が好みじゃないなと感じつつ、細部は溢れてるので観てよかった〜とは思った。樽のブドウを裸でふみ絞るシーンとか、本当によかった。映画というものの力量を、目の当たりにさせられた。
今飲んでいる薬のWikipediaを読んでいた。
そしたら「~の阻害作用を持つことがin vitroに示されている」という文があった。
「in vitro」ってなに? 僕は調べた。
in vitro(イン・ビトロ、イン・ヴィトロ)とは、生物学の実験などにおいて、試験管内などの人工的に構成された条件下、すなわち、各種の実験条件が人為的にコントロールされた環境であることを意味する。語源は「ガラスの中で(試験管内で)」を意味するラテン語である。また、対立する概念はin vivoである。
in vitro -Wikipedia
生物学の用語らしい。あくまで生体での実験はまだで、試験管内では確認が取れているみたいな状態を表すのか。その状態を端的に表す日本語が無いから、ラテン語の成句をそのまま利用してin vitroと書くのだ。生物系の研究者の間では、当たり前に使われるらしい。動物愛護の観点から、なるべくin vitroで済ませたい事例があるんだって。
わくわくした。アルファベットの熟語なのに、しれっと日本語の文中に存在している。胸が躍る。僕はこの感覚に覚えがある。あれだ。「a priori」だ。
a priori。本を読んでると、たまに出くわすやつ。「証明するまでもなく、そのものの定義から当たり前に導かれる性質」みたいな意味だと思う(違ったらごめんなさい)。「すべての白鳥は白い」はすべての白鳥を調べなければ確認できないのでa prioriではないが、「すべての円は丸い」は円の性質から自明なのでa prioriだ。これも日本語でバシッと代替できる語が無いので、ラテン語がそのまま採用されている。カタカナでアプリオリって書くときもある。
パートナーに聞くと、a prioriは哲学や文学系の人にとっては当たり前の語彙らしく「無いと困るくらい使う」と言っていた。かっこいい。僕は今までの会話で、a prioriと言ったことがない。言ったらきっと、顔が赤くなっちゃう。
僕は、もっと欲しくなってしまった。こういう、かっこいいの、もっとくれ!
思い当たる範囲のラテン語の成句はあるけど、a prioriやin vitroくらいグッとくるものはなかなかない。たとえば、et cetera(およびその他のもの)とかQuod Erat Demonstrandum(かく示された)は、ポピュラーすぎて甲斐がない。vice versa(逆もまた然り)は、英文中に出てくるとテンションが上がるけど、日本語なら「逆もまた然り」って言えばいいからなあ。tabula rasa(白紙状態)やde facto(事実上の)は、アルファベットではなく「タブララサ」「デファクト」とカタカナで書くことの方が多い気がする。
僕は調べた。調べたらめっちゃあった。その中で、選りすぐった。
・in situ(その位置において)
さまざまな専門分野で使われるらしい語。「本来あるべき場所」とか「収まるべき場所」みたいなニュアンスだと思う。in vitroとかin vivoとは違い、完全に実際的な環境で実験を行うイメージ。僕はベッドの上に寝そべって天井を見つめているとき、in situに生きている気がする。
・sui generis(それ自体で一つのクラス/ジャンルとなる)
芸術作品とかで、あまりに独自性の高い名作とかはそれ自体が一つのジャンルとなったと言えるので、sui generisと言えそう。最初「エポックメイキング」と同じような意味かな? と思ったけど、エポックを築いた作品というのはその後に無数の後発作品を出したことを表すので、それ以外にそのジャンルと言える作品が存在しないsui generisとは、むしろ逆の概念に近いな。『Demon’s Souls』はエポックメイキングな作品とはいえるが、その後にソウルライクをたくさん生み出したので、sui generisではない。sui generisといえるのは何だろう……ホヤとか? 法学でも、特別かつ独自な解釈が必要となる事件などを言い表すときにこの言葉を使うらしい。
・quid pro quo(何かのための何か)
等価交換の精神を言うときに使うらしい。最初おしゃれじゃんと思ったけど、よく考えるとギブアンドテイクって言うのとあまり変わらないか。
・inter vivos(生存者たちの間で)
生前贈与などに関係する法律用語らしい。今日見つけたなかだと、僕はこれがいちばんグッと来た。なんか、何かの概念を人に対して適用するとき、それを生存者の間でのみ考慮するのか、亡くなった人類も含めて考慮するかが重要な時ってある気がする。なんだろう。たとえば、今年は日本被団協が受賞したノーベル平和賞は、推薦対象は団体か個人で、個人の場合は生存していることが条件だ。だからノーベル平和賞の受賞者はinter vivosに決定されていると言えるだろう。それが理由かはわからないけど、マハトマ・ガンディーはノーベル平和賞を受賞していない。
inter vivos、めっちゃ使いたい。いつか言う。「それはinter vivosだね」とか言って、「え、今なんて言った?」と困惑されたい。
こうしてラテン語を読み漁っていると、なんだか「耳年増」もそういうラテン語のように聞こえてきた。
ミミ-ドシマ【(ラテン)mimi doscima】
未経験のまま、間接的に知識を得た状態で。「彼女はーに様々な恋愛テクニックを教えてくる」
トロヤマイバッテリーズフライド