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2024 - 10 - 16

起きたけど、まだ眠かったけど、起きた。

浴室掃除用の洗剤とかの買い出しに行った。今日は数年間手つかずだった風呂場の浴槽を、掃除するのだ。

眠い。あくびをした。アニメでよく見る。主人公が、眠い目をこすりながら登校するシーン。さっき見た『村井の恋』2話でもやってた。あれってあたかも平穏な日常の記号表現みたいに使われているけど、実際のところすごく辛くないか。僕は高校生のとき、眠気を残したまま登校するのが本当に×××(任意のネガティブ)で、毎朝が憂鬱だった。まぶたを持ち上げる力がなく、ほとんど目を閉じながら歩いた。頭の中で眠い眠い眠いと呪詛を唱え、視覚や聴覚に入るすべてに腹を立てていた。僕が物語を書くなら、午前中のキャラクターにあくびはさせない。眠いのに行動しなければならない状況は、地獄だから。

眠い目をこすり、パソコンを開いた。

大学のキャリアセンターの方と、リモートで就活面談をさせてもらった。テキーラを飲みながら、45分話した。自身の活動経歴と就活の状況を伝えつつ「僕は何をしたらいいでしょうか?」と尋ねた。

いわく、何に先立っても自己分析、とのことだった。自己分析は毎日しているつもりだけど、僕のそれはだいたい「結局、自分なんて存在しないんですよね……」みたいな方向に循環してしまうので、形がない。「就職活動における自己分析」とは、具体的なエピソードを用意して、そこからどのような個性が抽出でき、何を学べたかを言語化して、いつでも答えられるよう控えておくことだ。そうなると確かに不準備かも……僕は自己分析シートをダウンロードした。取り組んでみよう。こんな縦横のスプレッドシートで、一人間の個性が表せるとでも? とむかつく気持ちもあるけど。

あとは、ポートフォリオをいち早く作ろうとのことだった。今月中にいったん作り上げて、専門の方に見せて添削してもらうこと。う〜。やだな。僕は紙面デザインがあまり好きじゃない。デザイン的に「これがいいな」と決定を下していく作業が苦手なのだ。フォントを選ぶだけで、1時間迷ったりしてしまう。アア! ア! 文句言うな! 今月中にやるぞ。意識的に、あまり時間をかけずに作ろう。人に見せてフィードバックをもらって修正、というサイクルを素早く回していこう。

エントリーシートや適正試験は、現時点の能力でそんなに問題ないとのことだった。「時事問題とかって、何か特別な対策した方がいいんですか?」と訊いたら、笑われた。しなくていいのか。

僕の志望している会社に昨年度入社した、大学のOBがいるらしい。「その先輩は、どんな人でしたか?」と尋ねると、キャリアセンターの方は「もうあの子はね、誰が見ても優秀って感じの子で。超人格者!」と言った。僕は不安になって、「そうなんですか。僕、人格者じゃないんですけど、いけますかね……?」と弱音を言った。

面談はそんな感じで終了した。おかげさまで、今後の活動方針が立った。自己分析と、ポートフォリオだ。それにしても「人格者」って、具体的にどのような感じの人をいうのだろう。

ハーマイオニー・グレンジャーみたいな感じか。まあ、先人の真似をしてもしょうがない。僕は、生身のトロヤマイバッテリーズフライドで挑もうと思った。全部生身で。

身体を自動操縦モードにしていたら、昨日からJavaScriptで作っていたアプリが完成した。

表示される犬に名前をつけていき、一度名前をつけた犬が来たら今度はその犬の名前のボタンを押すというゲーム。つまるところナンジャモンジャだ。膨大な犬画像のストックから毎ゲーム選出されるので、ナンジャモンジャとはちがって毎回異なる顔ぶれの犬で遊べるところが良いと思う。一人でやるよりも、二人で遊ぶ方が楽しかった。交互に操作して、ミスした方が負けとするのだ。すると名づけをあえて難解にするなどの駆け引きが生じる(ナンジャモンジャってよくできてるなあ)。

Dog APIという、犬の画像をランダムで出力してくれるWebAPIを使って作った。こういうダミー素材をオープンソースで提供してくれるサービスは、本当にありがたい。インターネットの良い部分。自分も同じだけ還元しなきゃという気持ちになる。

気持ちになった。

気持ち。還元。

風呂洗うぞ!!!!

僕は右手にスポンジを持った。

左手にはウルトラハードクリーナー 防カビプラスを持った。

ウオー

落ちない。赤カビ・黒カビ・石鹸垢。一旦疲れたので、寝そべって休憩している。汗だくだ。

浴槽は、こするための形をしていない。側面をこする時は横方向に力を加えなきゃいけなくて、手首に負担がかかる。底をこする時は、外側からだと浴槽のへりが肋骨に押しつけられて苦しいし、内側からやろうとすると足や膝の起きどころに困る。楽しい体勢がなかなか見つからなかった。あと、サビだと思って諦めていたものが、だいたい黒カビだった。つまり、本気でこすれば落ちるのだ。その事実が、むしろつらいな……。

……。

再開するか。僕はSpotifyで、2000年代J-POPのプレイリストを流した。つじあやのの『風になる』から始まった。

かれこれ3時間くらい、風呂掃除を続けた。でも終わらなかった。

わかったこと。赤カビは、逐一「この三センチくらいの小島の部分を消す」みたいにターゲットを決めて、そこだけを集中してこすりまくる。考えなしに漫然とこすっていても、何も落ちない。いま自分はどの部分のカビを落とそうとしているのか、意識するのだ。そして必要な力を込める。グルグルと円の軌道でこする。そうすればカビはいつか落ちる。というか、落ちるまでこすり続ける。あと体勢は大事。汚いのは一旦気にしないで、背中を浴槽の壁にくっつけたり、お尻を下ろしたりして重力を分散しないと、体力がきつい。こすりたい箇所を変えるたびに最適の体勢を探して、モゾモゾ身体を変形させた。

石鹸垢は鍾乳洞のようで気味が悪いが、対処はいちばん簡単だ。洗剤はいらないので、スポンジの粗目の方でゴスゴスと削っていけばいい。粉っぽくなってきたら、水で流せば気持ちよく落ちる。黒カビは、頑張っても落ちないやつがあった。それらはたぶん、もっと強力な洗剤が必要だった。僕は保留した。

掃除、楽しいな。自分の陣地を少しずつ増やしていくみたいだ。カビまみれの風呂場を使うときは、いつもなんとなくゾワゾワしていた。カビエリアは薄気味悪く、どこに触れるのも憚られた。でも今日洗ったところは、当分は僕のエリアになった。今は抵抗なく素手で触ることができる。家というのは、徐々に自分のものでなくなっていく。悪しきものが入り込み、巣食う。侵食してくる。持ち主たる我々は、掃除によってそいつらを祓い、所有権を取り戻す必要があるのだ。

午前4時39分。

まだ半分しか掃除できてない。

でも続きは明日やることにした。やる気はまだあるが、あまり生活リズムを壊したくない。明日起き次第、最後までやるね。それで、就活とDeath the Guitar開発の向こう数日の予定を立てて、実行する。

まともだ。やっぱり。