俺・ザ・カビキラー

2024 - 10 - 19

起きてゴミ屋敷に行った。

親友の家だった。僕はキッチンで手を洗い、彼に「このハンドソープ、有効なやつ?」と訊いた。親友は「有効だよ。よくわかってるじゃん。お前同類の匂いがするな」と言った。生活が苦手な奴の家には、枯れ果てて無効になった衛生用品がよくある。僕はハンドソープで手を洗った。

今日は15時にここに到着して、18時に小籠包のお店で食べる予定だった。だから、その間の3時間にこの部屋の片づけを手伝おうと思っていた。でも僕は、だらだらしていたら1時間遅刻した。親友の方は、小籠包の予約を後回しにしていた結果、17時からの席しか取れないことがギリギリに判明した。そのため、16時〜17時の1時間しか片づけの時間が取れなかった。この感じが、我々の関係性を物語っている。

だいたいのゴミの山というのは、飲料容器によって傘増しされている。ゴミ袋を取り出し、ペットボトルとビンカンから優先的にまとめていった。

モンスターエナジーを毎日飲んでいるらしい。そこらじゅうに置いてあった。あと2リットルの水のペットボトルもたくさん放置されていて、どれもことごとく200ミリリットルくらい中身が残っていた。いちいちそれを捨てるのが面倒くさかった。

箸と醤油皿があるが、その前にはパソコン機材があった。調味料も並んでいた。こいつはキーボードを食べているのかと思った。親友が「P」を箸でつまみ、醤油につけて口に運ぶさまを想像した。

野菜ジュースの底は、動いていた。ビオトープが形成されつつあるようだった。

ここにハエを閉じ込めているらしい。構わずゴミ袋に放り入れたら、親友は「あーあ、解き放たれちゃった」と言った。あーあ?

ユニットバス室がなかなかひどく、一面が埃や抜け毛、黒カビだらけだった。天井やシャワーカーテンにも黒カビがたくさん付着していた。この写真、便座は綺麗に見えるけど、この便座を上げると地獄の光景だった。

僕は最近掃除にハマったので、カビキラーとスポンジを構えて奮起した。あらゆる黒カビに泡を吹きつけ、こすった。先日使ったウルトラハードクリーナーは風呂垢の除去や防カビ性能には長けているが、黒カビにはやっぱり塩素系の洗剤が最適だった。黒カビは根を張ってすぐ復活するから、アルカリ性の液で根絶しなきゃいけない。カビキラーは市販のものではキッチンハイターの次くらいに塩素含有量が高く、泡なので付着してくれるのがありがたい。室内がプールの匂いに包まれた。塩素で身体がやられないよう、換気に気をつけた。

その間、親友は皿洗いを頑張った。一度全体をざっとこすってから、一つ一つ洗うと気持ち悪いベタつきに触れなくて済むらしい。飯の予約の時間が近づいてきていた。親友は外に出るための服を探した。僕は別にすぐそこなのだからその部屋着のままでいいじゃんと言ったが、親友のこだわりとしてそれは嫌なようだった。親友はズボンを引っ張りだして足を通したが、股間でつっかえた。太ったので入らなかったのだ。彼は「大丈夫、太ってるとき用のやつもあるから」と言って別のズボンを取り出し、穿いた。それも、パツパツだった。なんか人間みたいだな、と思った。

結局掃除は間に合わなかったので、一旦小籠包を食べた。僕たちは、最近の我々の会話のネタが中学時代の思い出話ばかりになっていることを憂慮した。それを避けると、仕事や恋愛の話になってしまう。それはそれで、なんとなく貧しいと感じた。僕たちはドライブに行く約束をした。これからも、新しい思い出を重ねていくのだ。思えば、親友が会社勤めになってから、いやもっと前から、僕たちは旅行というものをしていなかった。

親友は、インターネットで画像がよく流れてくる大量の保育園児がワゴンに乗せられて運ばれる様子を見たことがないらしかった。彼はその存在自体を疑わしく思っていた。僕は何度も見たことがあった。朝の10時くらいにやっているイメージがある。僕が「あれを見ると、ボムを投げ入れたくなる」と言うと、「危ない」と言われた。大昔の思い出話に甘んじるよりは、こういう現在形の会話の方が楽しいな。

残りの片づけを終えた。黒カビはほとんど除去できた。ユニットバスはかなりよくなった。部屋には依然として物がとっ散らかっているように見えたが、フローリングはだいぶあらわになった。今日僕に手伝えるのは、このくらいだろう。僕は満足感とともに親友の家を後にした。

最寄り駅まで送ってもらっている道中、女性が地面にしゃがみ込んで、うつむいていた。その横の地面には、アクションペインティングのようにゲロが飛散していた。軌跡的に、このゲロはおそらくこの女性のものだった。親友は「すご」と言った。駅の入り口で親友と別れた。親友は、帰りにもう一度あのゲロを見ていくらしかった。

僕は電車に乗って、姉の家に向かった。今日は姉の家に泊まりたい気分だった。

「何か買ってきて欲しいものある?」とLINEで訊いたら「ポケモンカードのステラミラクルが1パック欲しい」と言うので、コンビニに入った。ステラミラクルはなかった。しかし

ウワー!!!! ずっと探していたBASEの完全食焼きそばがあった!!!! 1ヶ月、通りがかるコンビニに寄ってはこれを探していた。ずっと見つからなかった。僕はもう期待しないでいた。突然現れてびっくりした。姉の住む地域にあったのか。僕は2個購入した。ひとつは姉に差し入れすることにした。

姉は妖怪ウォッチ4をやりこんでいた。パーティーメンバーはとっくにレベルマックスに到達していて、ハイエンドコンテンツに明け暮れていた。

姉の家は綺麗だった。さっきまで親友の部屋の片づけをしていた話をした。写真を見せると「今来てる服、脱いでくれ」と懇願された。僕は脱いだ。ア! カビキラーの漂白効果によってTシャツが白く変色していた。背中は黒カビが付着していた。これはもうだめだ。先日サンフランシスコに白シャツを置いてきてしまったのもあって、最近服が減るスピードが早い。ちょっとやだかも。

姉の部屋で布団に入った。明日は一緒に五反田のコワーキングスペースで作業しようという話になった。就活のためのポートフォリオを作るぞ。

今日はあまり、自分のことを考えなかった。人の家を渡り歩いた。眠りに落ちる前に「お姉ちゃんから見て僕ってどう思う?」と訊いた。しかしなんと言われたか忘れた。寝た