もよりの日

2024 - 10 - 31

13時に起きたと思ったら、また寝た。16時に本格的に起きた。

今日は制約のない、穏やかな一日を過ごそう。昨晩は「プールで泳ごう」と考えていたけど、なぜか咳がひどいのでやめた。制約がないので、やめてもいい。単にプールに行かないよりも、プールに行くつもりの予定があらかじめあって、それを破るかたちでプールに行かない方が、気分が良い。風見鶏の向きは、今日の僕が決めるのだ。僕は、行きたいところに行く。

僕は歯医者に行った。

これは全然僕の自由意志ではなかった。3か月前から、今日の17時に行くことが決められていた。さすがに行くほかなかった。僕は倒れていく治療用椅子の背もたれに身を任せ、口を開けた。

歯医者に行くたびに思うことがある。施術中の舌の位置について医師が全く指示してこないの、怖くない? 歯医者では、頻繁にドリルやらが入って歯を削ったりする。もしそこに舌先を触れたりしてしまったら……大変なことだ。だから僕はなるべく口腔内で、舌をドリルの対角の位置に避難させている。でもこれは、僕が防衛のため自主的にやっていることだ。ドリルが回っているとき、絶対に舌を持っていっちゃいけないエリアがあるはずなのに、その言及がないのが怖い。「右の方削るんで、舌は左に寄せておいてくださいね」みたいな指示があって然るべきじゃないのか。客のことを信用しすぎじゃないか? 舌の生殺与奪を委ねられていることが、恐ろしい。ぼうっとして舌を置きっぱなしにする人とか、あるいはわざとドリルを舐めに行く愉快犯とか、今までにいなかったのかな?

10月も最終日で、乾燥の時期に入っていた。歯科衛生士の方が、僕の口に指を突っ込んで、端っこをぐいっと持ち上げた。僕は、リップクリームを塗って来るべきだったと気づいた。引っ張られた唇が、メリメリと張り裂けそうになった。次同じことをやられると、たぶん本当に裂けると思った。危機。僕は手を挙げ、「あの、すみません。えっと、唇が乾いていて……」とまで言った。でも、その後の言葉に詰まってしまった。僕は、唇が乾いているとき用に、保湿等の処置みたいなのをしてほしかった。しかしそういうのが歯医者にあるのか、判らなかった。あると判っていたらそれをお願いしますと言えたけど、もしそんなもの無くて衛生士に「だから何ですか?」「唇はお前の問題だろ」とでも言われたらどうしようと思って、うまく訊けなかったのだ。

衛生士さんは軽く「わかりました」と言って、テキパキと何かを持ってきた。そしてまもなく、僕の唇にしっとりしたクリームのようなものが塗り広げられた。よかった。そういうのあったんだ。僕は「ありがとうございます」と言った。「ま」のときに、確かな潤いを感じた。次回からはもじもじせずに言えるぜ。

歯医者が終わった。今度こそ自由の活動をしようと思った。僕は繁華街に行って、冬用の寝巻きを買った。

その後、珈琲館に入った。コーヒーを飲みながら『情報 第2版』の続きを読み進めた。

東大生が一年生で済ませてしまうような内容を、この歳でやっている。僕は自由を感じる。好きな勉強を、好きなときにしている。面白いです。今日は主にデータ構造とオブジェクト指向についてだった。

今回はよくわからないことを、ChatGPTに訊いてみたりした。

僕は最近ChatGPTを使うとき、険悪な関係の2人のティーンエイジャーに交互に説明させて、説明完了とともに絶交させるのにハマっている。

満足するまで勉強して、ぼちぼちカフェを出た。

昨日リリースされたNintendo Musicアプリで、カービィの曲などを聴きながら歩いた。FC音源は、擬似三角波の丸いベース音がかわいい。ベースにしては圧力が無さすぎる。8bitサウンドみたいな制約のもとで作る表現、またやりたいな。今の自分に必要なことは「このやり方は今回はやらない」というふうに、表現技法を絞っていくプロセスだと思う。

今日は咳だけでなく、眼もおかしかった。まぶたを開いているだけで、周りの筋肉に鈍い痛みが走った。たまになる眼精疲労だった。ドラッグストアに寄って蒸気でホッとアイマスクを買って帰った。

家に着いたら、もう眠くて仕方なくなっていた。皿洗いをしていたら、つるんとやって小皿を一枚割っちゃった。

祖母はまた、あの公園の怪我猫と再会したらしい。今日はベンチの上に寝転んでいたようだ。祖母はこの前と同じように、常備していたちくわを猫に食べさせた。祖母はもうすっかりその猫の虜になっている。人生の楽しみがひとつ増えたと言いたげな笑顔で、その日の様子はどうだったとかを語った。僕は「へ〜そう」と言った。

情報を少しだけ読み進めて、そして寝る。今日はこれといって何もなかったけど、心穏やかな一日を過ごせた。

明日のことは、明日考えることにする。