(No Longer)人間失格

2025 - 03 - 22

えーっと起きて、朝ごはん食べながらボージャックホースマン見て、ユメギドの開発をした。

玄関を作った。このまま仮組みでもいいからラストのイベントを実装して、ひとまずのゲームループを作りたい。そしたら、テストプレイで実際の触り心地みたいなのがわかってくるから、部屋のパターンを増やしていく作業も全体観のなかで検証しながらできる。

リングフィットアドベンチャーをした。

早めに家を出て、三軒茶屋のサンマルクに来た。今日は親友と18:00に集合してご飯を食べる約束をしていたが、お互い時間ぴったしに落ち合えるとは思えないので、あらかじめ来ておいて、カフェとかで作業をしながらのんびり待てば効率がいいと思ったのだ。知人と集合するときに先方がよくこのようにして待っていたので、なるほどと思って僕も真似してみた。結構待ち合わせの常套手段だったりするのかな。

サンマルクでパソコンを開いて、玄関の設計を続けた。「ス!」「ズ!」と店内は鼻を啜る音が蔓延していた。親友は予想通り20分遅れで来た。彼も昨日、突然の花粉症に見舞われ背骨がめちゃくちゃ痛いと言っていた。変な花粉症だな。親友はカフェという業態を敵対視している(存在の意味がわからないらしい)ので、サンマルク店内ではそわそわしていた。僕たちは食べる店を探しに出た。

迷路のような裏路地に来た。PS5みたいだ。退廃的だけど、居酒屋の明かりは灯っている。常連客が多そう。昔バイトしてた京都の居酒屋からの帰り道によく通った先斗町という路地がこんな感じだった。と思って、今ストリートビューで先斗町を見直してみたら、ぜんぜんこんな感じじゃなかったわ。先斗町に対していわゆる「ディープな飲み屋通り」というイメージが先行していたけれど、それはフィクションのやつだったかもしれない。見返すと、もっと綺麗で観光地然としていた。

居酒屋でアルバイトしてたの、もう五年ほど前か。カウンターで、お客さんの前で焼酎の水割りをつくる時に、ロックアイスを手掴みで入れてしまい、大将に「オイ」と言われたことがある。あと、川床(鴨川が見える座敷)の階段で滑って転んで手に持っていた軟骨の唐揚げを頼まれたお客の前でぶちまけたことがある。あと二階から降りる階段で滑って千尋みたいに一階まで転げ落ち、階段の手すりを壁から剝がし取ってしまったことがある(階段を下りたはずなのにまだ左手が手すりを握っていてうけた)。客に「ガリちょうだい」と言われて、シャリを持っていったことがある。いつも失敗ばかりで憂鬱だった。

しかし実は、僕は仕事ができていた? らしい。他のバイトさんや従業員さんのあいだでは「トロヤは仕事ができる」と認識されていたらしく、そのことをバイトを辞める前後の時期に先輩から言われ、驚いた。新しく入ったバイトの仕事初日には「教えるのが一番上手いから」という理由で僕が教育役として同じシフトに割りあてられていたらしい。全然知らなかった。自分はロボットみたいに動いて機転が利かないし、カウンターでの客に対する愛想もさほど良くないしで、無能だと思っていた。シフトに入っている日は、今日も大将や従業員さんから心の中で舌打ちされるのかな~とか考えて、出発直前まで布団で動けなかった。自分はしっかりやれているということを当時自覚出来ていたら、もっと気楽に望めたのに。従業員や他のバイトは気さくな人ばかりだったし、自分で自分さえ認めてあげれば、人間関係のストレスはため込まずに済んだ。

ある日の仕事中、厨房で従業員さんたちから「トロヤ、城之内の下の名前って何だったっけ?」と訊かれたことがあった。わからないですと答えたら「そっか。知ってるならトロヤくらいかなと思って訊いたんだけど」と言われた。僕はその後、ずっと視界が真っ暗になって仕事が手につかなくなった。バイトの中で唯一アニメに詳しい有識者としての期待に応えられなかったことで、自分の存在価値が失われたような不安に見舞われたのだ。そんなふうに、城之内克也ごときのことで落ち込んでしまうくらいには、僕にとって居酒屋アルバイトは恐怖体験だったのだ。

その恐怖体験を、結局2.5年くらい勤めちゃった。0.5年の時点ですでに辞めたいと思っていたのに、惰性で。僕は当時大学に行けていなかったために、唯一の社会との接点としてのアルバイトを辞めることがなんとなく怖かったのかも。不登校で用事がないゆえにシフトに入れまくられていたから(それも自分がシフト希望を馬鹿正直に丸だらけで提出したせいだ)、自分が店から重宝されていると思い込んでいたのも、躊躇いの理由だったかもしれない。美味しい賄いを腹いっぱい食べさせてもらえていたことも、辞めない言い訳になっていた。一人暮らしの身としては、食事について考えなくて良くなるのは魅力的だった。

親友に「ずっとお前が人目を気にしすぎてるの心配してたから、最近そういうの解体できてきたみたいでよかった」と言われた。本当にそうだ。

三茶の居酒屋。親友が人生で初めての生牡蠣を食べていた。感想を訊いたら「火通した方が美味い」と言った。へー。

親友からインドネシア旅行の思い出を聞かせてもらった。インドネシアの車道は左側通行で、コンビニはファミマがあって、今ちょうどラマダン(断食)期間中だったらしい。観光で訪ねたモスク(イスラム教寺院)の写真を見せてもらった。きらびやかで広大な空間の床に、イスラム教徒と思しき人が地面に突っ伏していた。祈りを捧げているのか? と思ったら、親友曰く「寝てただけ」らしい。ラマダン中のモスクとはいえ、そこでは特に儀式的なことはおこなわれず、みんな居睡りしたりスマホをいじったりと、各々快活クラブと大差ない時間を過ごしていたようだ。ホームレスの受け皿的な側面もあるのかな。

お土産にコピ・ルアクを貰った。ジャコウネコの糞から取り出した豆を使ったコーヒーだ。「有名なやつじゃん。高級品じゃないの?」と訊いたら「めっちゃくちゃ高級品。日本円にして***円」「エ! そんな高い金払ってくれたのか?」「いやそれは、もっと安かった」「安いってどういうこと? コピルアクは廉価版とかあるのか?」「わからない」と言われた。不穏。でもありがとう。

そのあと何を話したっけ。色々話した。ボードゲームの話とかした。僕がなぜ昔からカタンをはじめとする戦略系ボードゲームが弱かったのか、という話をした。

拡大再生産とか、交渉とか、役作りみたいな、ドイツで賞を獲るタイプの滋味深いボードゲームが、僕は軒並み下手だ。僕は知略を競うゲームにおいて、負けることは自分の知的な劣位が暴かれることに等しいと思い込んでいるようだった。くだらなすぎて自分で書いていて恥ずかしいな。でも本当にこのような不安を、昔からボードゲームをするときに感じていました。たとえ運の要素の大きいゲームでも、負けることは自分の人生の幸の薄さを総括して突き付けられるようで、心から楽しめなかった。プレイ中は黙り込んで、怒鳴られた子供のように委縮することが多かった。結果としてオールイン的な、道化プレイに走る癖があった。トロヤは賭ケグルイだとよく言われた。道化に走ることで、順位付け以外のところで尊厳を確保しようとしていたのだ。賭ケグルイって防衛機制でなるもんなんだ。蛇喰夢子もそうだったのかな。僕はある意味、誰よりも本気でボードゲームをプレイしていたと言える。

僕って、ボードゲーム嫌いなのか。ずっと嫌だったのか。今日気づきました。焼き肉が嫌いなことに気づくのにも時間がかかったが、ボードゲームを遊ぶのが嫌いってのも、なかなか気づけないよ。僕が楽しめるのはドデリドとナンジャモンジャのような瞬発系だけだ。僕が一番強いから。あとコードネームやデクリプトのような共感性やワード系のゲームも無理なく楽しめる。

「今は昔に比べて働くのが大変ってよく聞くけど、それって具体的にどういうことですか」と彼に訊いたら「労働強度が上がってる」と教えてくれた。知らない語だった。「労働強度?」「たとえば出張中の新幹線とか。昔は移動中は休憩時間だったけど、今はその間もメールを打ったりしないといけないじゃん?」

技術の進歩でどこでも仕事ができるになったから、どこでも仕事をしなきゃいけなくなったということか。昔は三人でやっていたようなことを今は一人がマルチタスクでこなす時代になった。年功序列の価値観が解体されて成果主義が増えていることもあり、労働者は頑張ることへのプレッシャーを感じるようになってきている等々……労働者が求められるスタンダードの高まりに、スペックが追いつかない人もそのぶん増え、適応障害・発達障害などが顕在化……労働強度の高まりによって社会全体の生産性は高まったものの、その富の分配が伴っておらず、実質賃金は伸び悩み、生活の実感としての豊かさは感じられなくなり……(ChatGPT)なるほど。

とかなんか、話をした。店を出て、駅に向かった。親友が「俺最近Steamでゲーム買ったんだよね。珍しく」と言った。「Balatro?」と訊いたら違うと言われた。改札で分かれた。

帰宅した。

パートナーと話をした。僕に欠けているのはマネジメント力なのか、そもそもゲームを作るということに不向きなのではないか、などの話をした。「理想の一日を毎日過ごしていたら、理想の一か月は過ごせない」と言った。

その後、寝ようと思って横になった。でも頭を休められなかった。思考が突っ走ってしまい、不安と不満の感情が膨れあがった。ベッドから再び立ち上がって、自分が何を訴えたいのかも不明瞭なまま、パートナーにネガティブな問題提起をした。とても忙しい状況の彼を「まだ話は終わってない」と拘束して、仕事の邪魔をしてしまった。彼から「何を求めているの?」と訊かれ「わからない。逆になんでそんなにわかってるの?」などと言ったりした。あまりにも整理されていなかった。しばらくして、僕は急速にげんなりし、自分に失望した。あんこバターのバウムクーヘンを食べるしかなかった。

歯を磨いたあと、彼に謝罪して、感謝して、寝た。