No Context 坊主

2025 - 04 - 22

襖が開いて「13時15分だよ」とパートナーが起こしてくれた。「13時15分なんて大嫌いだ」と言って起きた。歯医者に行かなきゃ。

金が入ったので髪を切ろうと思った。散髪の頻度も減らしたいし、今までよりも多めに切ってもらおうかな……なんて注文すればいいんだろう。

気を抜いてしまって、このまま行くと歯医者に遅刻しそうだった。クリニックに電話してその旨を伝えたら「そこまで遅いと厳しいので、少しあとに来ていただいて15時50分はいかがですかか?」と言われた。僕は大丈夫です、申し訳ないですご対応ありがとうございますと言った。

時間が空いたので、先に髪を切ることにした。近場に見つけた床屋に入った。発券して理容師の方に渡した。「どんな感じにしますか?」注文内容は決めていた。「丸刈り3ミリで」

僕は人生初の丸刈りを選択した。一度くらい丸刈りにするタイミングはあっていいと思っていた。時期的に今がそれな気がした。気になることといえば、丸刈りになることで審美性の観点でパートナーから愛想を尽かされたらどうしようという不安だけがあったので、家を出る前に「戻ってきたら別人になってるかもしれないけどいいか?」と念を押して確認した。

バリカンの音を鳴らしながら、理容師は鏡越しの僕に「いっちゃって良いのね?」と最終確認をした。僕は良いわけないだろと思ったが「はい」と言った。

髪がねー。ちょっと記憶飛んだ気がする。

初めての坊主にしたことで、さまざまな気づきを得た。まず、店を出て帽子を被ったときにメッシュの部分が地肌に擦れて(フライングタイガーの頭に刺す泡立て器みたいなやつのような刺激があって)、不意打ちで喘ぎ声が出た。次から出さないようにする。あと、太陽光が頭皮に直接当たって、めちゃめちゃ熱い。boiled。坊主は涼しいという噂を聞いていたのだが。

これは今だけかもしれないが、存在しない前髪をかき上げてしまったりする。外はいま風が吹きつけているのだけど、幻髪痛?みたいな、たなびく髪のゴーストの感触があった。

あと自分の頭蓋の形がわかって面白かった。左の前面がやや凹んでいた。

日が沈むと風が冷たくて噂通り涼しかった。

プリンが浮いていた。

歯医者行って帰宅しま。パートナーに頭を見せたら「お〜! いいじゃない。本当にトレインスポッティングみたい」と言ってくれた。

頭に手を置いているとその部分だけ温かくなって、しばらくしてから手を離すとその部分だけ冷たくなるなど、坊主頭にも色々とメリットがあるようだった。

昨日のアニメリサーチの余波で気になった、川尻善昭監督『獣兵衛忍風帖』を見た。マッドハウス制作の1993年のアニメ映画で、劇画っぽい剣戟アクション。マトリックスやジョン・ウィックにも影響を与えたらしい。主人公は毒に侵された忍び。ヒロインは体に毒を宿したくノ一で、彼女を抱いた者は皆死んでしまう。終盤に主人公の毒を消す方法が明らかになるのだが、それは「ヒロインを抱く」ことだった。そんなわけある。「毒をもって毒を制す」らしい。毒ってなんでもありだな。時代のエネルギーを感じるというか、欲望の赴くままに描きたいアニメーションに直滑降していったような作品で、なんだか元気をもらった。

この『獣兵衛忍風帖』みたいな、昔めのOVA的なアニメのいわゆる神作画シーンをコンテクスト抜きで投稿する海外のXアカウント、山ほど見かけるなぁ。ボウリング場で銃撃戦する戦闘シーンのGIF画像をいったい何度タイムラインで見かけただろう(梅津泰臣監督の『MEZZO FORTE』という成人向アニメの一場面)。そのようなクリップが並んでいると懐古的な美意識の熱気を感じざるを得なくて、一回りしてSNS世代の憧れの形のひとつになっている感じがある(大学にそういうの好きな人が多い)。

色々な流れで『RD潜脳調査室』の第一話と『片田舎のおっさん、剣聖になる』の第一話を見た。

そのあとパートナーに薦められて『こどものおもちゃ』を見た。パートナーはこれが大好きで、DVDを全巻揃えている。4話まで見たけどとても面白かった。今までに見た他のどの作品にも似てない、見たことのないアニメだった。びっくりした。すごかった。主人公がつねに高速で喋り続けていて怖かった。演出は不条理ギャグを突き詰めてるのにテーマが笑い飛ばせるものではなくて、どういうつもりなのかわからなくてそれがオシャレだった。僕からすると”闊達”な主人公(および世界)にはどうしてもコメディ文脈で読み込める範囲をはみ出した変さがあって、そこにADHDっぽさや双極性障害の躁エピソードっぽさに近しい精神世界を感じてしまい、余計にぞわぞわする。

めっちゃアニメ見ちゃった……昨日せっかくdアニメストアに加入するのをやめる決心をしたのに、抜け穴をかいくぐるようにアニメ欲を満たしている。うー情けない。画面が暗転するたびに丸坊主の頭の者が映って、誰。

腰の痛みを和らげるためにしばらく横になっていたけれど、よっこら作業をしようと立ち上がった。

のに、作業をせず、寝そべって、獣兵衛と同じ川尻監督の『妖獣都市』を見てしまった。そのあと『BLUE GENDER』を数話見てしまった。もうすぐ6時になる。明日学校なのに。8時半には起きなければ。自分のこと嫌いになる5秒前だ。4、3、2、、、

𝐇𝐀𝐓𝐄.

坊主にしたところで、心が入れ替わるわけでもないようだった。ただ坊主になっただけだった。