PIA : 世界が芸術家の夢なら
雨音を聞き流して、18時頃に起きた。
寝起きから腰が痛くて、吐き気もして、ねぇ。雨だからなのか、パートナーとの関係修復のあとだからなのかわからないけれど、今日は初めからコンディションが終わっていた。
『ゲーテはすべてを言った』をほんのちょっと読んで、その読書時間が霞むくらいスプラトゥーンをやって、そしてなんとか4時間弱、Discordの作業チャンネルに繋ぎながらGodotで開発をした。まとまった作業ができたのは久しぶりだった。
持続する胃の痛みが、空腹と食欲を仲立つ必然性みたいなものをバグらせていた。全体代謝装置としてのトロヤはお腹を空かせて栄養を求めているのに、各消化器が「NO」を突きつけ、食事を受けつけなかった。結局ご飯を途切れ途切れにしか食べられなかった。
散歩ができなかったから、せめてリングフィットアドベンチャーをして筋トレはやりたいなと思っていたのだけれど、腰の痛みと吐き気で諦めた。

コーヒーのなんか淹れるデバイスが進化した。説明が面倒くさい。コーヒーが今日から美味しくなったってことを言いたい。
今日は地味で空疎だったけれど、たいへん体が弱っているから仕方がないという認識で。さっさと寝て、回復を目指すというノリで。少なからず作業はできたのだから、成功体験としてスタンプを捺していい。
Blue Princeというパズルゲームがめちゃ面白いらしい。やるべきゲームがどんどん積まれていく。最近ゲーム、本当にやってないなぁ。
腰が痛すぎる日はどうしようもない。だるま落としみたいにさ、腰をストンと無くしてしまいたいよね。
4:12。レイモンド・スマリヤンの『What Is the Name of This Book?』という自己言及論理パズルが気になっている。本当に気が向いた時に設定を詰めているパズルゲームがあって、それに近いアイデアが載っていそうだからだ。
とある命題を示すとき、その証明の過程で目的の命題それ自体を既知の定理として使用してしまう誤謬を「論点先取」というらしい。
ChatGPTに「論点先取の例文を作って」と頼んだら、以下の問題が出てきた。
「真のアートは解説を要しない。ゆえに、この絵画が真のアートであることは論をまたない。」
これ、むずかしい。これを論点先取の実例として捉えるなら、「この絵画は真のアートである」の証明として「真のアートは解説を要しない」という定理を用いているということ? で、よしんばその定理を証明しようものなら「この絵画は真のアートである」が前提として必要になる? のか?
整理してみる。任意の絵画xについて、「xが真のアートである」をA(x)、「xは解説を要する」をE(x)としてみる(正式な論理学の記法に自信がないので、変な書き方になっていたらすみません)。問題「真のアートは解説を要しない。ゆえに、この絵画が真のアートであることは論をまたない。」はそのまま式化すると
∀x(A(x) → ¬E(x)) ⇒ ¬E(A(P))
となるかな? 「この絵画」はPとした。
よく見ると、「解説を要しない」と「論をまたない」を同じ述語Eで表しているところに一つ欺瞞が挟まっている。型エラーだ。左辺のEは絵画に関する述語なのに対し、右辺のEは命題に関する述語になってる。「任意の絵画xについて」と最初に書いたのだから、右辺はおかしい。
ではいったん、「任意の絵画xについて」を「任意のオブジェクト(絵画も命題も含む型)xについて」と動的型付け的に記述して、あえてこの型エラーを許容してみる? そうしたら上の式は、真偽は置いておいて、正しく書くことはできていることになる。シンタックスエラーは出ない状態だ。ただ、ここからどうすんのって話。上の式を見て、僕はどうすればいいのか。この式がいかに論点先取で破綻しているかを示したいのか。ChatGPTに訊きます……ほうほう。
まず、推論
∀x(A(x) → ¬E(x)) ⇒ ¬E(A(P))
の左件
∀x(A(x) → ¬E(x)) (真のアートは解説を要しない)
これは任意の変数xについて言っている普遍命題だ。だから、これが成り立つと仮定すると、xに特殊な変数を入れても必ず成り立つ。ここでxにA(P)(絵画Pは真のアートである)という命題を入れてみると、
A(A(P)) → ¬E(A(P)) (「絵画Pは真のアートである」が真のアートであるならば、絵画Pが真のアートであることは解説を要しない)
も成り立つ。
ここでChatGPTは、
A(A(P))はA(P)と同値である。
と主張した。「『命題 A(P) が真のアートである』というのは、平たく言えば『P が真のアートである』A(P) が成り立つ、という同じ条件です。 つまり外側の A(A(P)) は『A(P) が成り立つ』という意味で、通常の読みでは『A(P)』と同義に扱えます。」とのこと。
一瞬納得しかけたけれど、本当にそうか?
A(A(P))(「Pは真のアートである」は真のアートである)
だからと言って
A(P)(Pは真のアートである)
が自明とは限らないよね、べつに。論理的には。ChatGPTは「真のアートである」ことと「真である(成り立つ)」ことを故意に混同しているように見える。この誤謬を「通常の読みでは」と誤魔化しているが、真善美がごちゃ混ぜになっている〜。でもChatGPTはこれをひとまず認めたいらしいので、認めてあげよう。むしろ「真のアート」と「真の命題」を同値であるとするのって、ある種芸術家の夢想するプラトニックな世界みたいでロマンチックではある。だから認めてあげよう。
それではこの世界では、任意のオブジェクトyについて
∀y(A(y) ↔︎ y) (yが真のアートであるならば、yは真である)
という普遍命題が成り立つとしよう。すると、その特殊版
A(A(P)) ↔ A(P) (「Pは真のアートである」が真のアートであるならば、Pは真のアートである)
も成り立つ。この同値変形をあらためて問題の左件の特殊化命題
A(A(P)) → ¬E(A(P))
に適用すると、命題
A(P) → ¬E(A(P)) (Pが真のアートならば、「Pが真のアートである」は解説を要しない)
が得られる。今の一連の変形を最初の推論
∀x(A(x) → ¬E(x)) ⇒ ¬E(A(P))
に適用すると
(A(P) → ¬E(A(P))) ⇒ ¬E(A(P))
が得られた。これは「『Pが真のアートならば、《Pが真のアートである》は解説を要しない』ならば、『Pが真のアートである』は解説を要しない」という推論になる。ChatGPTはこの式を導きたかったようだ。なぜならこれは典型的な三段論法の形をとっているが、肝心のA(P)(Pは真のアートである)がまったく示されていないので、破綻していることがわかるからだ。
これにより、僕がうまく理解できなかった
「この絵画は真のアートである」の証明として「真のアートは解説を要しない」という定理を用いているということ? で、よしんばその定理を証明しようものなら「この絵画は真のアートである」が前提として必要になる?
が、正しかったことがわかった。だから、問題文は論点先取の構造に則っていることが確認できた。
今の主張はまさしく論点先取を使った誤謬だと言える。ただしそれは、絵画と命題が等価のオブジェクトとして存在し、真の芸術性は真実そのものと同値であることを無条件に認める、芸術家の夢想世界での話……ハァハァ……前提がめちゃくちゃだ。僕は論点先取の実例を理解したかっただけなのに。なぜこんな大冒険を。
でも一つ、面白い想像を得た。ぜんぜん論点先取の話からは離れるけれど、芸術家の夢想世界の論理は、一概に馬鹿にできないと思ったのだ。すなわち、現実世界においても、絵画を含むアートというものは、あながちそれ自体が命題にならないこともないと思うんだ。
わかりやすすぎる例で言うと、マグリットの『これはパイプではない』とか。あれは絵画作品だが、同時に命題でもある。
逆の言い方もできる。命題は、それ自体がアートになりうる。
それならば……
「命題は、それ自体がアートになりうる」もアートになりうる。
「「命題は、それ自体がアートになりうる」もアートになりうる」もアートになりうる。
「「「命題は、それ自体がアートになりうる」もアートになりうる」もアートになりうる」もアートになりうる。
「「「……「「「命題は、それ自体がアートになりうる」もアートになりうる」もアートになりうる」もアートになりうる」もアートになりうる」もアートになりうる」もアートになりうる」も……
僕はこの無限再帰構造を、勝手にPIAと名づけてみた。その名前は命題「PIA Is Art(PIAはアートである)」の頭文字をとったものだ。つまり、PIAは命題であり、アートだ。
この世界が芸術家の夢であるのならば。