Dream On

2024 - 08 - 29

不安が爆発し、飛散した不安が天井にこびりついた。何が不安なのかパートナー相手に陳述を重ねていった。次第に少しだけ話が具体性を帯びて、不安の輪郭が見えてきた。

僕はDeath the Guitarのゲームシステムについて、考えるのを避けている部分があった。ゲーム全体をいったいどうふうにまとめるのか、というすこぶる漠然とした、しかしたいへんに大事な問題だ。中核があやふやなままやって来たので、作業をするにもどこかで手が止まってしまっていた。手を止めないようにするために、無理にその場しのぎの目標を作ったりしていた。でもそれに基づいて手を動かしていくうちに、「だめや」と手を止めてしまうのだ。思考が仕事の足を引っ張り、仕事が思考の足を引っ張っていた。この循環がつらいくせ、こんな状態で2年間やみくもに進めていたわけだ。作り出しから今に至るまで、そのボトルネックを突破できないままだった。流石にもう向き合って答えを出さなければならないフェイズなのだった。

就活に対する不安が慢性的にあり、創作活動の焦りと重なって精神的に追い打ちを食らっていた。そういった具体的要因に、夏バテや家庭のストレス、学校の課題など小さな要因が重なって、この夏はいつのまにか身体が動かなくなっていた。今月は考えることから逃げていた。

今までどのようにしてゲームを完成させていたのか、わからなくなった。デンパトウも相当苦戦していたはずだけど、どうやって乗り切ったのか記憶が薄かった。ずっと手が動かずうだうだやっていたのだが、ある時急に1日でストーリーを完成し終えシステムを全部決定し、一週間くらいでほとんどのイベントを実装したのだった。要するに、たまたま運が向いて、過集中モードに入ったのだ。デンパトウはそれで間に合うボリュームだった。でも今回はもっと大きな制作だ。そんな雨乞いみたいなやり方からは脱却し、自分なりの手の動かし方や考え方を見つける必要がありそうだった。

こんなに毎日雨雲がたれこめているのは、僕が雨乞いみたいなやり方で生きているせいだ。でかい傘をさしながら、乃木坂駅に来た。六本木でお食事の約束があった。

ハードロックカフェ。ディープ・パープルとかが流れているダイナー風の店内で、Death the Guitarの担当の方と食べながら話す。メニュー表を開いた。「僕よくわからないので、トロヤさんが選んでください」と言われた。過去にTGIフライデーズで食べた時を思い出しながら、コブサラダを注文した。

ジミヘンの衣装。他にも様々なミュージシャンの衣装やギターが展示されていた。

担当の方とゲームの話をした。彼は『ラスト・オブ・アス』の終盤でキリンが出てくる場面に、強い感動をおぼえたと言っていた。僕はすごくわかりますと言った。あのシーンは、本当にすごい。キリンというのがすごい。彼はなぜ自分が感動したのか考えていた。僕も考えた。「今まで年齢以上の生き方を求められてきたエリーが、キリンに出会うことではじめて子どもらしく目を輝かせることができたのかもしれないです」などと言ってみた。

映画の話をした。最近観た『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が面白かったと話したら、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』も観てみるといいですよ、とおすすめしてもらった。観てみよう。

彼はすごく良い人だった。開発の悩みを話したら、一緒に考えて、意見を言ってくれた。Death the Guitarの参考のために、Hotline Miamiをプレイし直してくれていた。彼に好きなゲームを尋ねたら、悩みこんでいた。「最近は仕事のために遊ぶゲームが多くて、その中に面白いものもあるんですけど、それが本当に自分自身の好みとして好きなのかどうか、境界が曖昧になってきてしまいました」と言った。こりゃプロフェッショナルだぜ、と思った。過去の職歴とかを尋ねてみた。彼はいろいろな経験をしていた。彼の人生があった。

Death the Guitarのことを気にかけてくれていた。「ゲームが好きなんです。ゲームが好きという気持ちが底にあるから、仕事も頑張れます。それで僕は、Death the GuitarがないSteam市場より、Death the GuitarがあるSteam市場の方がいいと思ってるんですよね」ゲームの世界を充実させる力になれることが幸せだ、みたいなことを言っていた。僕は泣きそうになってしまった。僕もゲームが好きだと思った。

漫画の話もした。『あかね噺』をおすすめしてもらった。小説の話もした。僕が『エレファント・ヘッド』のグロテスクな真相の内容を解説したら、彼は「あぁ、なるほどそういうことか!」と言って立ち上がった。そして「気分が悪くなってきたので、トイレに行ってきます」と言い、いなくなった。

うれしい時間だった。僕と話そうとしてくれる人がいることは、ほんとにありがたいことだった。食事も終わりがけのときに「大丈夫そうですか?」と言われた。「何がですか?」と訊いたら、「メンタルです」と言われた。僕はむにゃむにゃよくわかんない答えを言ったけど、最終「だめです~」と言った。つらい時期を乗り越える秘訣を教えてください、と訊いてみた。彼は自身の体験談を交えつつ、「わかんないですね」と言った。

店を出ると雨脚が強くなっていた。最近は必ず、店に入る時と出る時で天気が異なっている。グッズ売り場でハードロックガチャを二人で回して、その後六本木で別れた。

ドカドカドカドカドカ、雨が屋根を叩いている。代々木上原駅のホームは水漏れしていた。雨水の塊が少しずつ、僕の足に近づいている。935hPaの台風の方は速度を落とし、いまだに九州に居座っていた。それで東京がこの降水量なのは、すごい。

『負けヒロインが多すぎる!』面白い。

テキーラを飲んで寝る。

時間が終わる。