60年前の青春

2024 - 08 - 31

朝6時に起きた。奇跡だ。

日中に起きられるなら、散歩する。

中身が出ている。

ヤニ オイシイ?

歩き慣れた散歩コースで少し見飽きたのと、セミの声がうるさかったので、イヤホンをつけた。最近東方の原曲BGMがSpotifyで配信されていることを知ったので、久々に聴いてみた。魂の底にこびりついていた中学高校のオタクの自分がよみがえる。試しに「6面道中」と検索してみたら、ビンゴ。6面道中曲のみを集めた有志のプレイリストが存在していた。東方Projectは各作品が6面構成なので、「〇面のBGMだけを紅魔郷から最新作まで通しで聴く」という横軸の楽しみ方があるのだ。6面道中といえばラスボス前なので、メロディの主張が弱く低音重視で緊迫感を強調したBGMがそろっている。各作品ごとのそのテイストの違いを聴き比べるのだ。中ボスの有無、ラスボス曲のフレーズを取り入れているか否かなどでも構成が変わってくる。曲の展開とプレイ時の体験を照らし合わせて、ニヤニヤする(オタクって気持ち悪いですよね)。

あれ、このプレイリスト、『ヴォヤージュ1970』が入っている。永夜抄の6面道中曲は『ヴォヤージュ1969』だけだろ! 『1970』はラスボス戦のラストスペルのBGMだから、違う。あとよく見たら『もうドアには入れない』が入っているけど、これもEX道中曲だから間違っている。天空璋の6面道中は正しくは『イントゥ・バックドア』だ。ウオ~、このプレイリスト作ったやつ……(どうですか? オタクって気持ち悪いですよね)。

へとへとで帰宅した。今日も夏だった。

でもその後、もっとへとへとなことをした。『風と共に去りぬ』を観たのだ。

500日ほど前に祖母とTOHOシネマズに行ったとき、祖母が午前十時の映画祭(古い作品をリバイバル上映する企画)のチラシを見て、僕に「もし『風と共に去りぬ』がやってたら教えてね。私、13歳くらいの時に小説を読んでから、ずっと心に残っているの」と言った。僕は「わかった」と言った。が、午前十時の映画祭で『風と共に去りぬ』がやっているかを逐一確認するのはだるくてさぼっていた。

でもこの前、LINEで写真を送る方法がわからないと言う祖母にやり方を教えながら、僕は「DVDの再生方法も映画のチケットの買い方もわからないこの人は、僕の助力がなければ死ぬまで『風と共に去りぬ』にたどり着くことはないんだ」と思った。そう思うと、自分がこの人の人生における重大な機会損失の担い手になっているような気がして、きまりが悪くなった。僕は少し意識的に『風と共に去りぬ』を探すモードになることにした。で、パートナーの家に普通にブルーレイが置いてあることに気づいた。ありがたく貸してもらった。

祖母はそれなりにうれしそうな感じだった。PS5をリビングに持ってきてHDMI端子をテレビにつなぎ、ブルーレイディスクを挿入し、二人分のコーヒーを淹れ、明かりを消しカーテンを締めて、再生した。『風と共に去りぬ』は、3時間42分あった。長すぎだろ。

観た。二人とも、へとへとになった。

祖母は「ありがとう。60年前の私の青春がよみがえった気持ちだわ。すごくいい話だった」と言った。実際『風と共に去りぬ』はいい話だった。はじめは結構単純な話なのかなと思っていたのだけど、観てみたらやっぱり不朽の名作と言われるだけあるな~と感動した。南北戦争をめぐるロマンス物語で、いろんな形で複雑な人間賛歌が描かれていた。ずっと音楽が流れていて、セットもでかくて豪華で、4時間弱のボリュームだから、相当制作費かかったんじゃないのか。二人で感想を言いあった。祖母は「小説を読み終えてから、私はレット・バトラーに10年も恋をしていたのよ」などとかわいいことを言った。「映画のレットはどうだった?」と訊いたら、祖母は「思っていたよりも顔が正方形に近くて、私正方形っぽい顔嫌いだから、幻滅した」と言った。

テレビが壊れた。

PS5接続のためにHDMI端子を抜き差ししたときにどこかが破損したのか、HDMI入力が受けつけられなくなってしまった。リアルタイムの地上波は観られるけど、レコーダーと接続できないので録画をしたものを観ることができなくなった。

僕は自宅のテレビをほぼ観ないので困らないのだけど、ドラマとかをしょっちゅう録画して観る父と祖母が困っていた。父が他の接続を試したり説明書を読んだりして、何とかしようと頑張っていた。このテレビは2008年くらいから使っていて、ディスプレイも赤色が崩れて表示されるほど経年劣化していたので、いつ壊れてもおかしくない状態だった。僕が抜き差しして壊れたので実行犯は僕とはいえ、たまたま最後のトリガーになっただけだ。そんな状況なので現在、壊してごめんなさいと謝るべきなのかよくわからず、一人で気まずくなっている。僕は自分が年寄りのテレビが登場人物として出てくるゲームを作ったことがあることを思い出した。

眠い。15時ごろから瞼が重くなっていた。夜型の生活よりも、身体が動かなくなるのが早い気がする。でも夜にこのくらい眠くてたまらなくなるのは、健全なリズムの証なのかもしれない。

もうすぐ夏休みが終わる。

終わるな。