誰もが、ソーシャルメディアを長時間使い過ぎたあとに、やっと画面から視線を上げた時の感覚を知っているでしょう。それは脳震盪を起こしたあとの感覚に似ています。いつのまにか時間が過ぎていて、呆然と周りを見回すのです。お祭り騒ぎのような刺激によって疲労感や失望感が残り、自分自身に怒りを感じることさえあり得ます。
Tamara Levitt
とマインドフルネスアプリで言われた。
19:30。作業……する。
昼間はパソコンの前に座り、Discordで作業通話をつなげるところまでは行けたけれど、ほんの少しコードを触ったらすぐに手が止まってしまった。途方もない作業できなさ。
その後、ベッドに横になって休もうとしたが、身体が落ち着かなくてくねくねくねくね発作的に動き回り「アアアー」と叫びながら暴れてしまった。コンサータを今朝目覚めたときに飲まなかったからだ。動悸などの副作用が最近気になってきて、なんとなく今朝は飲まないでみたのだ。飲むの停止するとこうなるんだ。いきなり服用を止めるのは、だめのようですね。飲んだ。
開発作業に向かうのが叫ぶほど嫌なのは、自分が今手をつけているゲームのビルドの現状が、あまりに僕の理想と乖離していて、そのことにショックを受け続けているからだ。さっき公園歩いたけれど、ふとDeath the Guitarのことが頭に浮かんでは現状に「ウッ」となり、そのことについて考えるのをやめようとするという思考の流れを何度も繰り返した。プロジェクトに対する後ろめたさによるスリップダメージを継続的に受けており、ゲーム開発というのが僕の記憶のトラウマエリアにしまわれてしまっている。作る以前に、それについて考えることを避けている。
今の自分はBitSummitまでの締切りに対して苦しんでいるわけじゃないな、と気づいた。締切りのために、本格的に向き合わざるを得なくなっただけだ(今になってようやくその構えになっているのがひどい)。間に合わないよ~という焦りより、向き合うことそれ自体の苦痛に対処しかねてる。
BitSummitにちゃんとした新しいビルドを持っていけないことを想像して肝を冷やし、体調もメンタルも崩しているわけだけれど、僕のその強迫感は何を恐れてのものかといえば、それはろくでもない仕上がりのゲームを制作者である僕が見ることだった。パブリッシャーの担当の人や、SNSで気にかけてくれている人々や、製品を楽しみにしてくれている人たちに、怒られたり呆れられたり嗤われたりみたいなことは、案外恐れていない。ただ僕が、自分が手を動かして実装してみたものがカスだったのに気づく、その幻滅の瞬間がめちゃくちゃ嫌なのだった。そのときのため息の感覚を味わいたくなくて、ゲームエンジンやタスクに向き合うのに果てしない抵抗を感じていた。
自分のDeath the Guitarに対する期待が足枷になってる。
作業する。自分を喜ばせるには開発を進めるしかない。
今日は、とりあえ、とりあえ、とりあえ、血のエフェクトにずっとこだわっていて全然必要なゲームメカニクスが揃ってないから、内実がまったく無いことに対する不安感がずっとあるから、まずギターの基本アクションのコードをそろえてしまおう。通常攻撃はひとまずできているとして、高速のタックル攻撃を実装する。ゲージみたいなのが必要。アセットをとりあえず持ってくるか。GameMakerの時のやつを。
22:27。アセット入れてご飯食べた。挙動の甘いところを調整。
急に親友から電話がかかってきた。出ると、親友は「いま酔っ払ってるから、半分の俺なんだけどさあ」と言いながら、今日あった会社の飲み会で心的ダメージを負ったことを僕に話した。
親友はそこで、なにやら先輩に対して失礼な発言をしたらしい。そのことをあとで注意されたようで、彼は自己嫌悪とやるせなさのハイブリッドのような精神状態に悩んでモゴモゴしていた。
「謝ればいいってものでもないし。ほら、俺って失礼じゃん? 再現性があるんだよな。俺、絶対これからも失礼なこと言うんだよな」「でも失礼な自分のことは許せないんだ?」「それが不思議なんだよ」
親友の放った失礼な発言というのがどんな内容だったか教えてもらった。彼は先輩からずっと「私の彼氏がどうたら」みたいな話に付き合わされていたようで、それに対し「興味ないです」的なことを言ったのだとか。めちゃめちゃ僕も言いそうなことだったので同情した。
親友は会社の人たちが盛り上がる話題について、強烈に嫌悪感を抱いていた。「俺ってセクハラが絶対に許せないのね。最も許されないことだと思ってる。でもみんなはそうでもないらしい。今日の席はセクハラ的な話に参加することこそが盛り上がりへの貢献となるような場だった」みたいな感じで呪詛吐いてた。
ジェンダー格差に敏感な彼は、男性が女性を対象化して面白がるような態度をめちゃくちゃ嫌っている。しかし会社で彼みたいな考えの人はマイノリティ側で、全体に体育会系の風土が強いらしい。つらそ……。どういうキモさのある場だったのか、容易に想像がつく。僕は、自分が居酒屋バイトをしてた時代に遭遇した「こんな人間、生きてていいんですか?」と驚いちゃうくらい破廉恥だった客たちのことを思い出した。
僕は親友に「もっと別のところに君の話が通じる環境がきっとあるよ。転職してはいかが」と、かなり無責任な意見を言った。僕って人に転職しろとか言える立場だっけ。
僕が「君は周りに失礼なことを言ったかもしれないけど、周りだって君に失礼だったわけじゃん」と言ったら、親友は急に感激しだした。「そっか。俺が失礼なことを言われたという言い方もあるのか。俺って観測者だから失礼の対象外だと思ってた。ウワーそうか、そうなんだよ。プラスマイナスってゼロなんだよな。プラスマイナスはゼロなんだよ。ウワー今の言葉ですべてが浄化されたわ。いい気分で土日過ごせそう」とまくし立て、彼は完全に元気になった。切り替え早。通話は終わった。
1:31。一応動きと吹っ飛んでる感がわかるよう暫定のエフェクトをつけた。実際に敵を倒せるようにせねばだ。
1:58。倒せるようにした。まだやることあるな……タックルに必要なゲージみたいな機能。あと物理ももっと調整しないとだ。が、頭痛がゴングを鳴らしているので終わり。
2:44。ご飯食べた。寝る。
明日は起きたらご飯食べて、お散歩でもしてシャワーを浴びたらまた日記に食らいつきながらパソコンに向かいたい。「向かいたい」とここで書いたところで、それができるかは明日の僕のパフォーマンスに依るのでランダム。神頼み。
作業をしているあいだは心地よかった。