逃げ湖

2024 - 07 - 27

今日から夏休み。

人生について考えようと思って家を出た。人生について考えようと思って家を出ようと思ったのは昨日で、あらかじめ父にいくつか登山ルートを提案してもらったので、それに沿って山を登ろうと計画していたのだが、もうなんか暑くて、外出るのが嫌すぎて、セミもうるさいし……。

セミは信じられないくらいうるさい。うるさいは漢字で五月蠅いと書くが、ハエの10万倍セミの方がうるさい。七月蝉い。というか五月のハエにうるさいイメージあるか?

何の話だっけ。セミがうるせーんだよ! でも今朝は静かだった。セミたちは特定のタイミングで静かになる。だから、窓を開けた。エアコンばかりつけていると酸欠になって気分が悪くなるという情報を見かけて以来窓を開けたくて仕方なかったから、セミたちが静まるタイミングをうかがっていた。窓を開けた。これで酸欠を免れると思った矢先、いわゆる「全体」としてのセミたちが鳴いていないのとは別件で個別の2匹のセミが窓のすぐ近くで喚きだした。「ギギギ!」「ギギ?」「ギギギギギ!」と喧嘩し暴れていた。ハァ。

何の話だっけ。セミがうるせーから、家から出るのが億劫になってしまって、気がついたら昼の12時が近づいていたので、慌てて家を出たけど山に行くような時間でもないので、昭和記念公園にでも行くことにした。登山は諦めたのだ。登山ってそういうところあるよね。午前を逃したら決行は絶望的になる。山は往復の時間が馬鹿にならないので、衝動的なスケジュールで動く人間の侵入を拒む。

昭和記念公園に向かっている最中で、昭和記念公園に行くのが嫌になって(何度も行ったことあるから)、目的地を変更して多摩湖に行くことにした。東大和市にあるダム湖だ。行ったことなかった。

水がある。人がいない。木々があって最高。心が洗われる。

でもくそ暑い。焚書レベルの暑さ。視界いっぱいに水面が広がっているけど、このでけえ水溜まりは俺の暑さをやわらげるのに一切寄与しない。そのことに腹が立つ。腹が立つほど暑い。調べたら37度あった。微熱じゃん。すごく長いまっすぐの堤防を歩いた。堤防の先にしっかりとあれが見えた。道路が水面のように見える光学現象、「逃げ水」―――これもその名に水を含んでいながら、俺の喉の渇きには一切寄与しない。近づくと消えるし。逃げるな。

俺も人生から逃げるつもりでこの湖に来たんだった。昨晩から眠れなくて、それなのに時間を有効活用できず作業の進捗も無かった。だからこの湖に来たんだ。歩いた。食べ物屋さんが無くて(というかすべてが無い)おなかもすいて、太陽に灼かれて思考も奪われたので、頭を空っぽにして歩き続けた。

東大和市郷土資料博物館があったので、休息がてら展示を見た。

アフリカに生息するハナムグリ。模様がかっこいい。もし目覚めたとき壁にこういうのが這ってたら、叫ぶ。

その後も影を睨みながら歩いた。

了解。

湖の反対側まで来た。

最初の写真のここ。

西武ライオンズのスタジアムがあった。今日は試合が無かったみたいなので、人がいなかった。電車に乗って帰った。帰り道、晴れているのに雨が降ってきた。晴れてるのに雨が降ってると生きててよかったという気持ちになる。晴れてるのに雨が降っているということは、雲が真上にあって、太陽は斜めから射しているのだ。つまり、今は夕方なのだ。夕方に帰っているのだ。生きててよかったという気持ちになる。

KINCHOの「吊るだけで蚊に効く虫コナーズプレミアム」に空いている穴は、よく見ると螺旋状に配置されている。たぶん蚊取り線香の螺旋にかけているのだ。生きててよかったという気持ちになる。

暑すぎて人生について考える余裕はなかったけどいい一日だった。