我々が話をするのは殆ど一年振りだった。彼を意識的に避けていたわけではない。ただ単に話すことが無かったのだ。僕は彼に対してずっと好意を持っていたし、今でもそのことには変わりはない。でも結局のところ、彼は僕にとっては(そして僕は彼にとっては)「もう通過してしまった領域」に属していた。僕が彼をそこに押し込んだわけではない。彼が自分でそこに入り込んだわけでもない。我々はそれぞれに違う道を歩んでいたし、その二本の道はなかなか交わらなかった。それだけのことだった。
村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』
こういう人との距離感が最近リアルになってきた。本当「それだけのこと」だなあと思う。
昨晩、右の鼻の穴の中になんか炎症みたいな部分ができていて、ひりひり痛んだ。こんな症状のときはたいていオロナイン軟膏を塗る。つまり僕は、指先にオロナインのクリームを取って、その指を右の鼻の穴に突っ込んだ。オロナインを患部に塗りつけた。存分にな。こんな合法的に鼻をほじれる機会、なかなかないから。下品じゃないのだ。医療行為だから!
自分でやる前に、パートナーに「(あなたが)やらなくていい?」と訊いていた。他人の鼻をほじれる機会は少ないから、やりたがるかもしれないと思って。でもやらないと言われたから、自分でやった。やったあと、ティッシュで指を拭きながら僕はパートナーに「本当は(あなたに)やってもらいたかった」と言った。「じゃあ今度はやるよ」と言われた。
14時に起きた。SEKIRO、葦名一心に数えきれないほど敗け続けている。でもつらくない。やればやるほどわかってくるのがうれしい。
ひたすら死んでは再挑戦を続けていたら、あるとき寝室からパートナーが現れて、テレビ画面の左下を指さした。HPバーの下に常在している、赤いアイコンを指していた。何、これ? パートナーは「これ、このマークあると敵強くなっちゃってるらしい」と言った。エ。どうやらそれは「厄憑」という状態であることを示すアイコンらしく、これがあるとゲームの難易度を上がるらしかった。これは持ち物を使えばいつでも解除可能で、高難易度プレイを楽しみたい人が利用するモードのようだった。そんなことぜんぜん知らなかった。ウワーそういえば、仙峯寺の鐘を撞いたときにそんな説明書きを見たような気がする。忘れてたな。まったく意識してなかった。
それとは知らぬまま、僕はずっとややハードモードでSEKIROをプレイしていたらしいです。なんてこと……まあいいけど。むしろここまで突破して来れたのだから、誇らしいです。その後厄憑を解除してからあらためて葦名一心に挑んでみたけれど、そんなに違いはわからなかった。敗けた。

瓢箪、みずみずしい。
審査会期間の徹夜やショートスリープが祟って、今日は最初から最後までずっと眠たかった。精神科の診察があったので病院に行ったのだけれど、行きも帰りも電車では目を瞑っていた。クリニックの待合室では眠りこけてしまい、自分の名前が呼ばれたのに気づかず、受付の人にゆすられた。
ジョナサンで会社の人と会って話した。「詰まったタスクがあると、それが怖くなって直視できなくなっちゃうんですよね。現実は思っているほど大ごとじゃないのに」と会社の人が言って共感した。自分が言ったのかと思った。あとはOuter WildsとHollow Knightと三体と中動態の話をした。
帰ってからSEKIROやった。ついに葦名一心倒した! ワァァァ! メチャメチャサイコー。最高ゲームをありがとう。ずっと面白かった。研ぎ澄まされた。恐ろしい敵を前に、逃げずに立ち向かう心を養った。え、二周目?
すごく良いゲームだったのでフロムソフトウェアいいなぁって思えたけれど、SEKIROはフロム作品のなかでは異色ではあるのだろうな。SEKIROのひたすら自分の動きの精度を上げていくゲーム性に痺れた身としてはむしろ、エルデンリングとかやると、敵が強くてもレベル上げたらなんとかなる感じ(そのようなイメージを持っています、違ったらごめん)に違和感をおぼえるかもしれないと思った。CupheadやCelesteみたいな、パターンをひたすら染み込ませて腕前を磨いていく体験の良さを久々に味わった気がする。
エルデンリング、やるの、やらないの。
寝る。