ニッポリ・トネリ・ライネル
すごい夢を見た気がするけど忘れた。
体温を測ると36.1度になっていた。関節の痛みもなくなった。心臓だけがまだ痛かった。けどこれは、風邪に関わらずよくなるやつだった。サンフランシスコ、行くぞ。
昨晩は風邪を治すためにたくさん寝ようと心に決めたのだが、一瞬の気の緩みが発生し、Slay the Spireを4時間くらいやってしまった。
Slay the Spireを遊んだのは初めてだった。飛行機の中でやろうと思ってあらかじめSwitchに入れておいたのだけど、つい手を出してしまった。病床に最適なゲームだった。
『Slay the Spire』はデッキ構築型ローグライトの原典といわれている。デッキ構築型ローグライトってのは「デッキ構築ゲーム」と「ローグライトゲーム」を合わせたものと言えるが、これが現代のゲームジャンルの中でもひときわ目立っている印象がある。色々なゲームがSlay the Spireを参照している。僕の好きな『Inscryption』もそうだし、いま人気の『学園アイドルマスター』もそうだ。
「デッキ構築ゲーム」といえば、ボードゲームの『ドミニオン』だろう。大学のサークルの先輩たちがドミニオンの中毒になって、ゾンビと化していくのを僕は見ていた。MtGなどのカードゲームと違って、自身のデッキの内容がゲームの進行に応じて変化する。山札が無くなると、捨て札すべてが再び山札に戻り、いくらでもプレイできるしくみになっている。だから強力なカードを効率的に使用するためには、山札の数を減らして手札に来やすくするなどの戦略がある。こういうふうに確率の分母をマネジメントしていくのが面白い。このデッキ構築のシステムを、周回を前提としたローグライクというビデオゲームの枠組みに落とし込んだら、Slay the Spireという神ゲーが産まれたってわけ。
やってみると面白かった。僕はドミニオンはあまりハマらなかった(頭を使うボードゲームが苦手)のだけど、Slay the Spireは対面に生身の人間がいないのもあって、もくもくと進められた。今から飛行機に乗るのが楽しみになった。フライトは長く、10時間におよぶ。Switchには『moon』も入れている。
昨日は結局、スレイザスパイアやって寝て……あやばい荷造りしなきゃやばい!!
急いでリビングにスーツケースを開き、それらしい衣類を放り込んだ。自室をかき漁って、汎用のType-Cのコードとか、ボードゲームとかを手に取った。それらをスーツケースに入れに、リビングに行った。すると、猫が、広げたスーツケースの中に立って、こちらを見ていた。かわい〜と思った。近づくと猫は逃げ、いなくなった。
僕は叫んだ。スーツケースの先ほど猫の立っていたエリアに、液体が溜まっていたのだ。スーツケースと、そこに入れていたズボン2本が、べっちょりと濡れて、獣の臭いを放っていた。出発まであと2時間しかない。
あわててズボンをもみ洗いし、スーツケースもろとも天日に干した。夕方だったので、有効な直射日光は限られていた。僕はまだ沈むな〜と念じながら、ベランダで夕日を見つめた。振り返って室内を見ると、網戸越しに猫が僕を見ていた。猫は「あ〜ん」と言った。こっちの台詞だよ。僕は猫に、もっとも強い言葉で非難した。猫はそれに対し、ふたたび「あ〜ん」と言った。
スーツケースからおしっこの臭いは消えなかったが、時間がなくなったので仕方なく荷物をまとめ成田空港へ向かった。昨日の発熱といい、この旅行は歓迎されたものではないようだった。

この「器」の字かわいい。
空港は、外向けの日本の様子を拝むことができる場所だ。エスカレーター前の大看板に、「ようこそ」みたいな顔をした数体のポケモンがプリントされていた。僕は、そこにいたポケモンの並びに違和感をおぼえた。そこにいたのは、ピカチュウ・ルカリオ・ニャオハ・ブラッキー・ストリンダー(ハイなすがた)・ストリンダー(ローなすがた)・ドラパルトだった。違和感というか、むしろ異様な一貫性というか……つまるところ、なんかPixivの件数が多そうなポケモンばっか選ばれてない? と思ったのだ。イーブイの進化系の中でもわざわざブラッキーが選ばれていたり、ストリンダーが2種揃いぶみだったり……。公的なメディアに駆り出されたメンツにしては、やけに挑発的な並びに見えた。
飛行機に乗った。離陸した。離陸の際の機内の、あの冗談ではない感じの揺れ具合は、いまだに慣れない。予想の揺れをかならず上回ってくる。

機内食が、こちらの予想よりも早く配られる感じにも慣れない。カツサンド。青のビニールに包まれて、溺死体みたいな色をしている。美味しかった。
前の座席には人がおらず、斜め前には人がいた。その人だけが座席を倒したので、僕からはその人が欧米系の顔立ちの女性であることが見てとれた。彼女は、自身のスマホでドラマを観ていた。主人公?が妊娠検査薬の結果を見るシーンがあって、彼女はそこでドラマを停止した。そして妊娠検査薬の部分をたっぷりと拡大し、それを凝視していた。
日本とイギリスの車道は左側通行だけど、アメリカ含め多くの国は右側通行だよね、という話をした。どんな理由があるのか気になって調べた。右側通行になった主な理由は、馬車が運行していた時代に、御者が基本的に右手で鞭を振るうため、対向の馬車とのバッティングを避けるために自然と右側通行になったという説があった。また、日本で左側通行となった理由としては、お侍は刀を基本的に左脇に差していたから、という説があった。しかしどの説もエビデンスは弱く、これといったわかりやすい経緯は無いようだった。各国それぞれで個別の決定があったのだ。

タイとラオスの国境道路では、右側通行と左側通行が切り替わることを示す道路標識があるらしい。面白いなぁ。
飛行機はいま太陽の真裏にいるらしく、機内の照明も落とされている。目が疲れてきた。
この飛行機は太平洋上を進行しているので、もうすぐ日付変更線をまたぐことになる。だから、そこで24時間巻き戻って、9月11日はまだ終わらないことになる。この日記はどうしよう。まだ終わらない方がいいのかな。
まあ、ここで終わっておていいか。気持ちとしては一日は終わりに差し掛かっているし、どうせ復路で帳尻が合うようになっている。
目を閉じる。