人類の指が5本ではなく6本だったら、クラシック音楽はもっと高度な芸術性を遺していたのだろうか。ヒャダインは喋る前から顔がすでに喋り始めている。
14時30分に目覚ましが鳴って、怒りのデス起床。髭を剃って家を出た。

精神科に行った。パキシルの処方量が増えた。
その後原宿に行く。今日はこのあとパートナーと合流して、合同誕生日祝い。二人の誕生日がやや近いため、祝いが合併した。

今履いている靴。2022年の8月にパートナーがくれたもの。ずっとこれを履いていた。かかとがすり減ってガシャガシャ鳴るようになった。つま先も割れて水が入るようになった。これを受けて、今日パートナーが誕生日プレゼントとして新しいものを買ってくれることになった! ありがとう。この靴も、今までありがとう。

原宿の並木のイルミネーションは、枝分かれしたすごい先端部分までライトが取り付けられていて、イルミネーション職人の執念を感じた。
靴屋に来て、7足くらい試し履きした。なかなか選べなかった。僕って本当にこの手の買い物に時間がかかる。ただ、服について何買うか迷っている時間は苦痛でたまらないことに比べると、靴は楽しみながら悩めた。靴は何を履いてもわりと様になるような気がするのだ。だからポジティブに迷えた。でもまじで決められなかった。

店の人に「すごい悩まれてますね」と言われた。「この3つまでは絞れたんですけど」「何を重視してるとかありますか?」「完全に見た目です。見た目以外は重要じゃないです」「見た目で迷われてるんでしたら、左のそれが一番履き心地いいですよ。ランニングもしちゃってもいいですし」「?」
見た目以外どうでもいいって言ったのに、見た目じゃない基準を持ち出されて混乱した。おそらく店員さんは、僕のなかで見た目の観点ではこの3つが拮抗してることは前提として受け入れて、その上で何か一つを抜きん出させるための別の視座として履きやすさの尺度を提案してくれたのかな。実際、左のやつの履き心地は段違いに良かった。でも履き心地なんて、どうせ履き続ければ全部馴染むからさあ。

一個脱落させて二択にまで絞った。桃鉄システム。
その後、ついに今後の相棒を決めた。店員の勧めは無視し、履き心地の良いやつじゃないほうにした。たっぷり2時間悩んだ。パートナー、ずっと待ってくれてありがとう。

ウオオオ今日からこれ履く! 2001年発売の人気モデルをリメイクしたナイキ ショックス R4で、あなた自身のルートを街に刻め。よろしくね。

この部分どうなってる。おしゃれってまったくわかりません。最近の靴は、だんだんロケットに近づいているように見える。

人の少ないカフェでコーヒーを飲みながら、予約した夕飯の時間を待った。僕はパートナーに誕生日プレゼントの『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を渡した。彼は喜んだ。アンディ・ウィアーが作者であることを知らなかったらしく、驚いていた。
僕はきたる2026年の抱負を喋った。「来年はランニングの一年だな。あと健康。毎日同じことをする。そして流石にDeath the Guitar完成させたい」彼にも抱負を訊いたら「コツコツ頑張る」とのことだった。同じだね。
ぶらついた。彼が昔よく行っていて思い出深いらしいキディーランドというおもちゃ屋に行った。エレベーターで最上フロアの4階に上がって、下がりながら見て行った。

悲しいことにキディーランドは、かつて彼が通っていたようなおもちゃ屋ではなくなっていた。現在のキディーランドは、種々の人気IPのグッズを取り揃えたグッズショップと化していた。3階4階にはカービィ、マリオ、ポケモン、ディズニー、ジブリなど重鎮IPのほか、おぱんちゅうさぎやンめねこなどのネット文脈のIP、こびとずかんなどの懐かしいやつ、パウパトロールやリカちゃんなどがひしめきあって群雄割拠状態だった。2階はサンリオ一色だった。そして1階は全域が、現代IPの覇者であるちいかわに完全にジャックされていた。

しかし改めて思うけれど、ちいかわってやっぱ桁違いにかわいい。すべてのツボを押さえている気がする。シビアな現実社会の反映に見えるフレーバー、パワーワード的なシュール要素、グルメ描写やハチワレの言語化から垣間見える謎のディテール、キュートアグレッション的な不穏さ、考察の余地をつくる語りの上手さ……みたいな、ネット受けしそうないろんな要素がふんだんに、あくまで「かわいい」のラベルに押し込まれてまとまった世界観を保っている。作者アカウントのあざらしの漫画も最高だし、本当にナガノ氏は天才だと思う。

あとネット受けしやすいIPの重要な特徴をわかりやすく示しているのが、この二人な気がしてる。モモンガと、右の、名前わかんないけど古本屋。「ンめねこ」と「うすくろ」の関係性や、「んぽちゃむ」と「きみまろ」の関係性もこの二人に似てる。
要は、それぞれの前者(モモンガ、ンめねこ、んぽちゃむ)は考えなしに傍若無人な振る舞いをして、後者(古本屋、うすくろ、きみまろ)がそれの尻拭いをするという構図だ。前者キャラはたいてい発達障害特性の現れっぽい、後先考えない、時として迷惑行為に近い行動を起こすんだけれど、その結果痛い目を見るのではなく、後者キャラが機転を効かせたケアを繰り出して、前者の失態を必ずカバーするのだ(古本屋は「はわわ…」って感じだけれど)。そのおかげで、前者キャラの笑顔は保たれたまま終わる。
このくだりが今の時代、ものすごいウケがいい気がする。発達っぽさからくる不穏が、世界によって許容されて”通る”というくだりは、モモンガに限らずちいかわ、ハチワレ、うさぎの三人の間でも細かくやりとりされている。
これこそが現代のネットのカワイイIPの勝ち筋ってやつなんじゃないかな。現代人はカワイイに、規範からの逸脱と、その恩赦のセットを求めている。という僕の考察。どう。

夕飯は素敵なシュラスコの店だった。シュラスコって初めて食べた。↑これはサラダバイキングで取りすぎて自滅した皿。

店内を肉の塊を持った料理人が徘徊していた。このチップを表向きにしていると、料理人がテーブルに寄ってきて、肉塊を削いで目の前で渡してくる。チップを裏に戻さないとどんどん来る。面白かった。肉はすべてめちゃめちゃ美味しかった。
パートナーが、誕生日プレゼントと言って光文社古典新訳文庫のゴーゴリ『鼻/外套/査察官』をくれた。新しい靴を買ってくれただけでも感謝してもしきれないのに、ダメ押しで本まで。

……これがなんと、鼻ッ!
誕生祝いの特別デザートも来た。なんか今日、幸せすぎるな。店員さん達は手拍手を打ちながらポルトガル語でハッピーバースデーの歌を歌ってくれた。ろうそくの乗ったケーキが運ばれてきた。歌われながら気づいたけれど、その時歌われたポルトガル語のハッピーバースデーの歌は、4拍子だった。
Parabéns pra você
Nesta data querida
Muitas felicidades
Muitos anos de vida
あとで調べた歌詞。店員たちはこれを、小節と拍子で分けると(・は手拍子だけの空拍)下のように歌っていた。
⓪ Para-
① -béns / pra /・/ vo-
② -cê / ・/ ・ / Nesta
③ da- / -ta / ・ / que-
④ -ri- / -da / ・ / Muitas
⑤ fe- / -li- / -ci- / -da- / -des… Muitos
⑥ a- / -nos / ・ / de
⑦ vi- / -da / ・ / ・
こんな風に歌っていた。4拍子。日本でよく聞く英語版”Happy birthday to you”は3拍子で歌われることが多い印象があったので、なんか新鮮だった(⑤に余韻の長い5拍目以降があるのは英語版の”dear 〇〇…”の部分と同じ)。これはポルトガル語の歌詞の長さに由来する特徴なのかもしれないし、このレストランがそういう慣習なだけだったかもしれないし、あるいは日本人が英語版を無理に3拍子にしちゃってるだけで、実は英語版も欧米では4拍子で歌われていて(birthday と to の間に一拍挟めばいいだけだ)、むしろ4拍子の方がグローバルスタンダードな可能性もあるな。とか、色々思った。とにかく新鮮だった。

Feliz Aniversário(フェリス・アニヴェルサーリオ)。
帰宅した。今日はなんだかゴージャスな一日だった。
眠れなかったので、ソファに座って、写真フォルダにあったパートナーの姿を模写していた。描き終わったので、彼のLINEに送って寝た。