午後のアカデミア

5時に行き場を失った 死にたいのはこういうときだ 目をつぶって遠い場所に行きたい 眠れないとき、願望形の言葉がたくさん思い浮かぶ 知らないところに行きたい 外の温度を確認したい 身体の操縦をやめたい 紙の感触を確かめたい いくつかの不安が潰れて消えてほしい 夜を終わりたくない 眼球がゆらいでちらついた ほどなくして眠るようだった 別れを告げるように眠るようだった 息継ぎをするように眠るようだった 自己の連続性を恨むとき、否定形の肯定文が僕を現世に縫いつけた 死と眠りは同じと感じた 眠りは息継ぎと同じと感じた 眠る時に目を瞑るのは、何も見ないようにするためだった 夜明けの時、日差しは見えてはいけないものを見せるようだった だから人は、夜明けを眠って過ごすようだった それを見ると、死ぬことは生を終わらせることではなく、生を保留することだと気づく 生は求めてもいないのに、向こうからやってくる 毎朝僕を叩き起こすのは、生だった 目がピント調節機能を失いつつある 眠りは近かった 寝たあと、もしも目覚めなかったら怖いと、みんなは思わないのだろうか 僕はもうひとさじの願望の重みでまぶたを落とす それはもう二度と目覚めたくないという願いだった あるいは別の自分で目覚めたいという願いだった 眠りはもう始まっていると気づいた 自分以外の誰かが くしゃみをした
起きた〜。↑これは何ですか?
大学に行った。
先生が自作したWebAPIのライブラリの中身によくわからない記述があって、これってどういう意味ですか? と質問しに行った。話しているうちに盛り上がり、僕と友達2人のために先生がちょっとしたプログラミング講座を開いてくれた。先生はホワイトボードを持ってきて、解説した。C言語でいうmain()関数にあたるものがUnityではユーザーインターフェースの裏で実行されていて、OnCollisionなど特定のタイミングで呼び出されるビルトイン関数は実は裏側では常時発動しており、MonoBehaviourクラスのデフォルト値としてNOP(何もしない)を返し続けているだけらしい(「と思う、僕Unityのことそんなに詳しくから予想だけど」と先生はつけくわえた)。UnityではMonoBehaviourを継承した自作の各クラス内で別個のOnCollision等を走らせることが多いけど、それらを全く一つも書かなくてもエラーが起こらないのは、デフォルトのMonoBehaviorクラスそのもののビルトイン関数の中身はだいたいNOPで定義されているからだそうだ。で、今の制作で使っているJavaScriptにはmain()にあたるものがない。では何を発火点として処理を始めるのかというと、Webの場合はHTMLのヘッドで呼び出し? 宣言? 参照? をしたときに一挙に処理が行われるそうだ。その際、処理順に不都合が起きないように、jQueryはその辺を都合よくまとめてくれている。
僕はJavaScriptを今回の制作で初めて使ったのだけど、() => {}という形の名前のない関数(アロー関数)が無数に存在していて、C#ばかりやっていた身からすると不気味で慣れなかった。(() => {})();で即時実行だって。怖……。僕が「C#でいうラムダ式みたいなものか!」と言ったら、先生に「厳密には違う」と言われた。ラムダ式とアロー関数の間には変数束縛やthisが表す対象のルールに細かな違いがあるらしい。ほへえ。ここで「変数束縛ってなんですか?」と僕は質問して、さらに個別授業が展開された。変数束縛とクラスのローカル変数の仕様の違いについて等……。
なるほど。完全に理解できたとは言えないけど、複数のプログラミング言語に横断的に通底する概念をいくつか知ることができた。今までゲーム開発上で、低層のレベルのところで何が起きているかまで理解しないまま使っていた関数やクラスのことをより本質的に把握できた感じがしてうれしい。うれしいっつーか、コンピュータって面白! だ。学べば学ぶほど低層まで理解が及んでいって、ビットとバイトが走る小さな世界に視点が近づいていく。さらに奥深く進むと、連続量である電圧を1と0のバイナリに落とし込む回路の仕組みまで気になってくるだろう。
美大は、こうした専門知識は自分から聞きに行かないと教えてもらえない。とくにうちの学科は人によって興味の方向がバラバラだし、課題に制約がないので全員が学ぶべき必須の知識体系みたいなのがないのだ。木材、石膏、アクリルなどマテリアルについて詳しく知りたい人はマテリアルの先生のところに行くし、写真や映像について知りたい人はその先生のところに、他にも電子工作、インスタレーション、音響、ゲーム……それぞれに異なるスペシャリストがいて、校舎内をうろうろしている。一般大と同じく「文脈」に詳しい批評家の先生とかもいて、この本読むといいよとか教えてくれる。美大はつくづく、不思議な教育機関だと思う。何か作れと課題を出すだけで、ほとんど何も教えてくれない。放任されている。自力で情報収集して、勉強や実験のプロセスを経ないと、作品は完成しない。しかし、そうやって何かしようとする時には、美大は無数のとっかかりを与えてくれる。僕たちはこの潜在性のために、目が眩むような学費を払っているらしい。僕が今受けている授業は、もうほとんど自由時間になっている。
帰り道は雨だった。

友達が横断歩道を渡ってくれなかった。
帰ったら一瞬で寝てしまった。知らぬ間に溜まっている疲労、なんなんだ。
明日は最高気温が30℃になる。明後日は22℃。体調崩すことが確定している。秋は別に、暑いと寒いを交互にやることではない。地球に教えてあげたい。