書くことと書かないこと
バスに、自衛隊の求人広告があった。

自衛隊なんて、考えたことなかった。自分には自衛隊に入るというキャリアの選択肢もあるのかと思った。

新宿に来た。
ずっと話してみたかったゲーム開発者のお二人と、会ってしゃべった。美味いカツオ料理をご馳走していただいた。ア! ご飯の写真撮るの忘れてた。

絵で頼む。
お二人のうちの片方は、初対面だった。「トロヤさん、出身はどこなんですか?」と訊かれた。僕は千葉県船橋市出身だが、転勤族で引っ越しが多かったのもあり、特定の街が自我形成において重要だったことはなかった。なので出身地について語れることは少ないですと言った。彼は「とりあえず地元トークで話を広げようと思ったけど、難しいですね」と笑った。僕はあきらめず、出身地だけでなく今まで住んだ場所をローラーで言っていった。すると、彼が長年暮らしていた関西の地元の隣の市に、僕が住んでいた時期があったことが判明した。その地域にローカルのカードショップの話などで、たちまち盛り上がった。これが地元トークの力か。二人で興奮していたら、もう一人の方に「全然わからないです」と言われた。彼は東北出身だった。
東北出身の彼は、この日記を読んでくれていた。「言葉を通して自分のことを理解しようとしていて、すごいと思いました。わからないことも、わからないなりに向き合っていて、トロヤさんの人となりが伝わってきました。書いてあることを読んで、確かに自分もこういうことを感じることがあるなと気づかされる部分もあったりしました」という感想をいただいた。僕は感動して、泣きそうになった。僕の生存を伝える程度の願いだけ託して書かれているこのテキストが、揺曳して、誰かの目にとまり、もとの願い以上の作用を起こしていることが不思議で、嬉しかった。
僕は、ぼちぼち就活が始まるので、この日記を一時的に非公開にしようかと考えていると話した。僕は日記に書く内容に一定のラインを設けていて、個人情報や角の立つ批判、過度にセンシティブな内容などは書かないようにしていた。でも以前、知り合いに「急にゲボの写真やうんこの写真を載せるのは、ラインを超えている」と言われ、僕の基準と会社側の求める基準にずれがある可能性があるかもしれないと気づかされた。そういうのを考慮して、ゲーム会社はなかんずく守秘義務に厳しいことだし、リスクヘッジとして非公開にしておくに越したことはないだろうと判断した。
↑のことを話したら、「あれ(汚物の写真)は僕からしてもライン超えてます」と言われた。やっぱだめなんだ。
三人で、お互いの作ったゲームの感想を話したり、仕事のことを話したり、その他(すごいその他)のことを話した。とても楽しかった。話し足りなかった。変わった人たちだった。変わった人というのは、どちらも僕が普段かかわる人たちとはまったく異なる思考エンジンに基づいて生きているように見えたということだ。それぞれ自分の中心にある欲求を大事にしていて、それ以外の些末なことには目もくれていなかった。しょうもないことには「しょうもない」と言い、やりたくないことは「やりたくない」と言い、飽きたことには「飽きた」と言っていた。経歴などを聞いても、僕がつねづね意識してしまういわゆる社会のレールみたいなやつの気配はあまり感じられなかった。今日一度お話ししただけで知った顔はできないけれど、お二人ともなんとも「アドリブ」で生きこなしてきたように見えた。僕はそれが、羨ましかった。
色紙とペンを渡された。「トロヤさんのサインください」と言われた。ヅ!! 僕にサインなどなかった。あ、でもこれはあれか。芸能人がやる、名前を判読不可な形まで崩して書くやつとはちょっと違う。創作界隈のコミュニケーションとしてよくある、自分の作風で絵を描いて「〇〇さんへ」と添えるやつだ。絵を描けばいいのだ。僕はやってみた。

下手だな。犬のイラストが左に寄ってしまった。まあ可愛いので、いいや。お相手も喜んでくれた。もう一人の方にも、書いてみた。

今度は真ん中に配置できた。お相手の名前の横に、あざとくハートマークなどもつけてみた。絵のクオリティは今後、枚数を重ねながら向上していくとしよう。
お二人からもお返しに、イラスト付きのサインをもらった。確かにこれは嬉しい。嬉しいな。トロヤさんではなく「トロヤくんへ」と書かれていて興奮した。トロヤくん。
新宿駅の改札でお別れした。
日記、一時非公開にするのは仕方ないけど、完全に誰からもアクセスできないようにすると、その期間書く気をなくすと思う。しかし、考えていることをテキストにおこし、誰かに見られる可能性のある場所に貼りつけるという行為は、僕にとってもはや精神的インフラとなっている。止めるとたぶん、メタ認知ができなくなって精神的に具合が悪くなる。パートナーや親友には個人的に送りつけさせてもらうとか、やったほうがいいかもしれない。少し考える。
帰ると、衆議院選挙の開票が行われていた。今回は、与党が過半数の議席を占めるかどうか微妙な状況だった。
僕はなんとなく、昔好きだった音楽のミュージックビデオをYouTubeで流した。それを見ていた。懐かしくなった。前の大学で失恋してたときのことや、中退してウーバーイーツや塾講師バイトをやっていたときのこと、美術予備校に通っていたときのことを思い出した。具体的にどんな曲を聴いていたのかは、恥ずかしいので書かない。守秘義務。水曜日のカンパネラとか好きだった。
夜明けになっていた。寝ねば。