殺傷・破壊・無力化・警告・威嚇・抑止力

2024 - 11 - 03

みなさん、いかがお過ごしだとでも言うのだろうか……。

秋葉原に行った。

UDXで開催された「デジゲー博」に遊びに行った。デジゲー博は僕が人生ではじめてゲームを展示した場所なので、思い出深いところだ。2年前の当時はイベント前日、不安すぎて泣いたりしてた。その頃に比べれば、成長したと言ってよい。

今日は会場に着いたのが15:20だった。イベントは16:00に終了だった。だから見て回れる時間が40分しかなかった。明らかにもっと早く来るべきだった。昨晩ポートフォリオの作成を進めていて、寝るのも起きるのも順当に遅くなったからだ。起きたあとも「寝たい! 行きたくない!」などとうだうだ抵抗して、時間を空費してしまった。でも、結局来た。動ける時間が40分しかなくても、規定の入場料を支払って、来た。0分よりましだ。これは、2年前の僕にはできない動きだ。

会場に入った。デジゲー博は良い意味で変わらないというか、ゲームイベントの中でもひときわ「同人」の香りが漂っている気がする。

「挨拶回り」と言ったらなんだかいやらしいが、気になっていた企業のブースを訪ねて、自分の存在をアピールした。その会社のお知り合いに案内していただいて、社長に会わせてもらった。僕は気持ち目を充血させながら、先方に「今自分は3年生で、ちょうど就活中なので! 何かあったらぜひご連絡させてください!」と言った。なんだか思い返すと、本当にいやらしいことをした気がしてきたな。まあ、恥ずかしがってもしかたない……就活はなりふりかまってやるものじゃない。正気は足手まといだ。言い聞かせる毎日。

しかし、必死のわりには自分の名刺を持ってくるのを忘れた。クッ。最近いつも忘れる。もしかしたら、もうとっくに尽きているのかも。リュックに入ってないってことは、部屋にあるってことだけど、リュックから取り出した覚えはないし。そろそろ新しいバージョンを印刷すべきだな。

そのあと、案内してくれた彼と一緒に会場をぐるぐる回った。何人かの知り合いや、その周りの人とも話した。40分ぶんの動きをした気がする。今気づいたが、ゲームを一つも遊んでなかった。もったいないな。まあ会場の空気を吸えただけ、昼間に陽の光を浴びられただけ、いいとするか。

そのあと、渋谷に移動した。山手線の内回りで、ゆっくり行った。総武線から行く方が早いけど、行きが総武線だったから、別のに乗ろうと思った。待ち合わせまで、まだ時間があったし。

渋谷に到着した。

星乃珈琲で、待ち合わせしていたゲーム開発者のお友達と会った。(↑これとても美味しい)

彼は昨日の約束通り、一眼レフカメラを貸してくれた。カメラの中にすで入っていた撮影データを見てみると、まな板の上にナスとにんじんとピーマンとにんにくが一つずつ置かれていて、その様子を真上から撮った写真があった。彼がいつかに自宅で撮ったものだろう。綺麗だった。

カメラを受け取ったあと、僕は自分のノートパソコンを開けた。そして現状の僕の就活用ポートフォリオを、彼に見せた。色々とアドバイスをもらった。トロヤさんの弱点を挙げるとすれば、作品が一人で作ったやつばかりでチームでの制作経験が少ないことだと思います、と言われた。実際の現場では大人数で製品を作るわけなのだから、チームでのものづくりを円滑に進める能力は超重要だろう。「だから、Death the Guitarもデンパトウも、パブリッシャーと並走して肩を組んでやっていることにもっと紙幅を割いて、キービジュアルなどの外注先についても情報量を増やして、『多くの人が携わっている感』をより強調すると良いと思います」ふむ……。

「そのカメラで、ゲームが実際に人によってプレイされている様子を撮って、その写真を載せると簡単に抜け感出て良いですよ」と言われた。「Death the Guitarって想定ターゲット層どこですか? たぶんゲーマーとしてはコアで、音楽とかのサブカルチャー好きな若者ですよね。美大だったらそういうカルチャーっぽい見た目の人結構いると思うんで、その人の家に行かせてもらって、画面に向かってコントローラーを握っている様子を後ろから撮らせてもらうといいですよ」

なるほど……! ゲームがプレイされている様子を収めることで、作品をどういう客層に届けようとしているのか、その意識があることを伝えられるのだ。僕は目から鱗だった。

次に「デンパトウのターゲット層はどこですか?」と訊かれた。僕は「疲れた大人、ですかね……じゃああれですか、知り合いの社会人に頼んで、スーツのままソファに寝そべりながら携帯ゲーム機を構えてる画を撮らせてもらえばいいんですね!」と言った。任天堂のCMで見たことあるな〜。彼は「いいっすね」と言った。なるほどなぁ〜。

たいへん参考になった。そのあとは、雑談した。僕は彼があまりにも良い人すぎて、なんだかウワーッとなってしまった。人として及ばないと思ったのだ。目が眩んだ。「本当に、あなたって、どうしてそんなに優しいんですか?」と変なことを訊いたら「いや、僕なんてぜんぜん優しくないっすよ。まじ悪いやつっすよ。ヒモになりたいって思ってるし」と言われた。「でもヒモになってないじゃないですか。本当に悪いことを考えてるんですか? 暴力とか」彼は「暴力? あ、ハイ。暴力とか考えるっすねー」と言った。「武器は何ですか?」と尋ねると、彼は長考した。そして「竹刀」と答えた。なんか無理やり言わせた感じになってしまったな。

我々は解散した。

僕は一人、腹を満たすためにマクドナルドに行った。

僕がチキンフィレオセットを食べているテーブルの左隣の席で向かい合って談笑していた二人の男性は、互いに子持ちのようだった。

Aさんは最近、毎年のように親戚(おじやおばなど)が亡くなっているらしい。その度に、なぜか自分がそれぞれのお墓代の一部を負担させられていることに憤慨していた。「死ぬ本人が自分の墓代を貯えてたなら分かるけど、なんで下の世代が身銭切ってつくってやらなくちゃいけないわけ。俺に言わせればさあ、お墓とかそもそもまったく興味ないんだよね。妻には、俺が死んだら絶対に墓とか建てないでくれって言ってるし。遺灰とか、海に撒いてほしいもん」と言っていた。

対面のBさんは、奥さんが毒親の元で育ったために精神的支柱が弱いらしく、彼女が取りそろえている毒親関連の書籍を自分でもよく読んでいるらしい。「毒親にはならなかった親でも、自分の子がさらに子供を産んでおじいちゃん/おばあちゃんになると、潜在していた『毒』を発現することがあるんだって。それくらい孫という存在が祖父母に対して放つ『どうにかしたい』と思わせる魅力ってのは、子供のそれを上回るらしいよ」と彼は言った。

その後二人は『HUNTER×HUNTER』はグリードアイランド編とキメラ=アント編のどちらが素晴らしかったかで言い争ったあと、『幽☆遊☆白書』は少年漫画の金字塔か否かで争っていた。僕はキメラ=アント編の方が好きで、幽白は断片的にしか読んだことがなかったから判らなかった。墓については、分かるーと思った。でも、いざ身近な人が亡くなったらその時どう思うかは、想像がつかない。

マクドナルドの店員がこちらにスタスタ歩いて来た。その人はABとは反対側、僕の右隣のテーブルにいた女性のところに来た。店員は女性に現金を差し出した。「こちら800円でございます。先ほどはたいへん申し訳ございませんでした」と頭を下げた。女性は軽い声で「ハーイ、もう大丈夫でーす、ハーイ」と言い、片手で金を受け取った。僕はこの女性の店員に対する態度が、嫌だと思った。店員のことを、同じ人間として見ていないような口ぶりだった。僕は口の中に、血の味がした。5年前、居酒屋でバイトをしていた時に、客に似たような謝罪対応をしたことがあった。その時に感じたのと同じ血の味だった。僕はマクドナルドを出て、帰った。

渋谷でカメラを貸してくれた彼は、今僕が考えているようなことを、考えたりするのかな。「武器は何ですか?」「竹刀」。竹刀とは稽古道具で、人を不必要に傷つけないために作られたものだ。僕だったら「本棚」と答えるかな。大きな本棚を倒して、つぶす。

僕は帰ってから、数時間だけ寝た。起きてから、ポートフォリオ制作の続きをやった。提出〆切の一つが明日、いやもう今日だった。今晩は徹夜になりそうだった。

明日は、通ってる大学の文化祭に遊びに行こうと思っている。でも、その前にポートフォリオを完成させて提出しなきゃ……。終わるのか、これ。