資本主義を検知しました

2025 - 09 - 07

16時半くらいに起きた。

yさんがご飯に誘ってくれたので、新宿に行って会った。yさんは1万円する服を着て、8万円するリュックを背負っていた。高そうな腕時計もしていた。それは昔yさんが好きだった人との思い出の品らしい。その人は他の人と結婚したらしい。

yさん(寒がり)はいま、アメリカ人のパートナー(暑がり)と冷房の温度をめぐって喧嘩中だった。24℃だと寒いと感じたyさんが25℃にしたら、パートナーに温度を”turn it back”しろ怒られ、主張を譲らない彼に閉口したyさんは結果地蔵になったらしい。その後、怒ったパートナーから英語の長文メッセージを送られてきたけれど、yさんは読む気力もないのだとか。英語圏にも長文メッセージがあるんだな。

僕は英語に興味がありすぎて、yさんの喧嘩エピソードのいちいちに「今のセリフ英語で何て言ったんですか?」と質問しちゃった。「互いの落とし所を見つける」は〈meet halfway〉と言うらしい。勉強になる。メッセージ上でのやり取りでは”100% no”という強い否定の言葉が用いられた。

「yさんジョナサン行ったことないんですか!? じゃあ二次会ジョナサン行きましょう」

店を出た。ジョナサンに向かって新宿を歩いた。yさんが「やっぱり都会を歩くと回復するなぁ」と言った。そんなわけないだろと思ってそんなわけないだろと言ったら「なんでですか?」と訊かれ、僕は「都会なんて、資本主義すぎですよ。僕資本主義嫌いなんで」と答えた。

「資本主義……そういえばゲームとか映画を作る人ってよく、農家とかと違って『生きるのに要らない職業だ』って言われることありますよね。ゲームを作るのは資本主義じゃないんですか?」「農家と比べたらそうかもしれないですけど。ゲーム作りが資本主義かどうかは、作ってるゲームによると思います」「どういうゲームが資本主義でどういうゲームが資本主義じゃないんですか?」「具体的な作品名を言ってもらえますか? 個別で資本主義か資本主義じゃないか言っていくんで」

それで、yさんから「Hollow Knightは?」「スプラトゥーンは?」「デンパトウは?」などとゲームの名前を言ってもらって、僕はそれぞれ資本主義かそうじゃないか答えていった。『人間失格』にこんなやりとりあったな。

ジョナサンに来た! パフェは資本主義。

yさんは『ボーイズ・イン・ザ・バンド』みたいに、ゲイだけの何人組の友達グループを持っているらしい。その中にかつていたセフレのことを、yさんが「その他フレンド」と呼んでいて興味深かった(ゲイのマッチングアプリではプロフィールで「友達募集」「恋人募集」「その他募集」の三項目を選べるため、ヤリモクの者はたいてい「その他募集」を選ぶ)。

今日はコミュニティについてよく話した。yさんは寂しがり屋で友達が欲しいということがわかった。yさんはご自身の仕事で有名になりたいと言っていた。なんで有名になりたいんですか? と訊いたら、有名になったら金も集まるし友達もできると言っていた。

yさんは↓のようなジェスチャーを伴って、自分の有名になりたさを強調した。

yさん「僕、金と」

「名声と」

「愛の中から一つだけ選ぶんだったら」

「絶対名声を選びますね」

立てた中指をしまったyさんに「トロヤさんは有名になりたくないんですか?」と訊かれた。僕は「まったくなりたくないです」と言った。

yさんの腕時計はよく見ると止まっていた。直すのめんどくさいらしい。12時38分で止まっていた。

小説の話をしたら「一冊だけ読んだことあるんですけど」と坂口安吾の『不連続殺人事件』を教えてくれた。難解なミステリーで、連載時に読者から犯人やトリックの予想を募集して、的中した人には賞金が出たらしい。本の最後には正解者の住所と名前、寄せられた予想に対する坂口安吾の所見が述べられていて面白かった。

他にも色々と話した。名声だけでなく、金や愛に関する話もした。暗い話をするとき、yさんは下半身を沈めて首だけジョナサンのテーブルの上に出した状態になった。

その後お別れした。久々にお友達と会って話せて幸せだった。誰とでも(誰とでもではないか)二人で話すのは楽しいな〜。これが三人の集まりになると、僕は状況によって変になる気がする。四人以上になると、昔馴染みの友人グループ以外だともうだめになる。隕石降ってこいって気持ちになる。yさんのようにはコミュニティの集まりを上手く楽しめない。隕石降ってこいやって思ってしまうな。これはもう苦手分野として割り切っていこう。

今日こんな感じだった。起きたらもう出発の時間だった。明日から大学の審査会なので、本当に早く寝ないと。

人と会った日の日記、起きた出来事や交わした会話を記憶のかぎり全部書こうとしてしまう癖があるな……。途中、明らかに踏み込んでるっぽい猥談をそのまま書いてしまっていて、我ながらこんな内容公開して大丈夫か? と思った。不安になってyさんに下書きを見せたら「その話は恥ずかしいのでカットで」と言われた。ちゃんと大丈夫じゃなかった。あぶなかった。

僕に日記に書かれた人で、消して欲しいところあったらいつでも言ってください! 判断して消します。

でも言われても消さないこともあると思う。書く者としても主義があって、他人のことも自分の責任で書いている。最初はおそるおそる書いていた日記だけれど、習慣として書いているうちに僕なりの(資本主義よりも重要な)主義らしきものができた。社会標準のラインを探り探り意識しながらやっていくよりも、自分の倫理観をはっきり固めて、その自分のラインに忠実であり続けるほうが、正しい。