GTT

2025 - 09 - 23

8時に起きて10時に起きて13時に起きた。

祖母に電話をかけた。昨日、向こうから電話がかかって来て「特に用事はないけどかけてみた。うちに来る予定はないの?」と言われた。そのときはわからないと言って切った。あとになって実家には郵便物を取りに行く必要があることに気づいた。なので今日かけ直した。

祖母に、夕方に歯医者に行くついでにそっちに寄るよと伝えた。「昨日電話したのはね、焼肉の用意があるから、トロヤも一緒に食べようと思ってたのよ」「僕焼肉が嫌いって」「あらそうなの?」「これ毎回言ってないか?」「毎回無視してる」「ひど」「じゃあ食べないの? 別のもの用意してもいいわよ」「いいよ。牛乳だけ飲んで帰る」「牛乳って(笑)わかったわ」

昨日と似たり寄ったりの状況で、全然体が動きません。左右の太腿を交互に殴ってる。

自転車に乗って、歯医者に行った。歯医者は閉まってた。ドーン!!!!

気を取り直して実家に行った。猫いた。祖母もいた。祖母が、自分が育ててる多肉植物の正体がわからない、スマホで名前を知りたいというので、Google画像検索のやりかたを教えた。すでに何度も教えたけれど、また教える。たぶん会うたびに教えることになる。スマホは、予期せぬタイミングでアップデートの通知や広告がポップアップしてくる。覚えたつもりの操作がそういうので阻まれて、祖母は固まり「どこを押せばいいのかわからない」と言う。僕は、こんなの祖母に対処できるわけないだろって思う。

教えるとよく「[父]ちゃんに訊いても『前教えたやろ』って怒って教えてくれないのよ。トロヤは何回も丁寧に教えてくれるから助かるわ」と言って感謝されるけれど、僕は、祖母は教えても覚えられないと思っているのだ。祖母にとって、スマホのUIは理解できる範囲を超えている。そのわからなさは、敬意を払うべきわからなさのような気がする。

祖母は「設定」の歯車や「戻る」の矢印、「メニュー」の三本線などのアイコンの意味を理解することができない。タップというのがどういう動きなのかもわかっていない。いまいち長押しになったり、指が逸れてスワイプになったり、一瞬すぎて反応しなかったりする。また、文字列がそのままボタンになっているということがなんだか直感に反しているらしくて、「この『後にする』の文字を押せばいいんだよ」と言っても「どこ?」と言ったり、文字の一行ぶん下の何もないエリアを触ったりする。

僕は祖母がわかるわけないと思いながら教えてるから、祖母からしたら「何回も丁寧に教えてくれる」と感じるのだろうな。「丁寧」というのは、「画像検索するにはスタート地点からまずはGoogleのアイコンを押す」「次はこのカメラのマークを押す」「次はこの虫眼鏡の白い丸印を押す」と祖母のやりたいことを実現する具体的な順序を、そのまま指示しているからだ。僕がやってるのは釣りのやり方を教えてるんじゃなくて魚を与えてるだけ。丁寧で優しく見えるけれど、一般化した理解にはつながらないから、応用は効かない。初めのころは「Googleは別に調べたことを教えてくれるんじゃなくて、いろんなWebサイトの行き先を提示してくれるだけで……」とか「アプリもビジネスで作られてるから、広告を表示したりして儲けを出す必要があって……」みたいに抽象的なとこをわかってもらおうとしてみた。でも何度かして、祖母がこういう概念を理解するのは無理だとわかった。

祖母がスマホを理解することが不可能なのは、知的に衰えたからではなく、端的にスマホを使う頻度が少なすぎるからだ。スマホのインターフェースは、自分で触って身体で覚えないと一生理解できないと思う。グラフィカルなアイコンやスクロール、アプリ、タップ・スワイプ等の操作など……の意味するところは経験で覚えていくしかない。逆にいえば、経験をこなせば抽象的な構造も言葉で説明される必要なく自然と理解できる。でも祖母は一週間に一度くらいしかスマホに触らないので、いつまでも身体に馴染むことがない。スマホは一週間に一度くらいしか使わない人のニーズに沿うようには出来ていない。一週間に一度くらいしかスマホを使わないから、充電する癖もつかない。使おうにも電池切れになっている。それでいっそう億劫になっていく。

という感じで、祖母のスマホとの付き合いかたでは一生「どこを押せばいいかわからない」が続くと思っている。それは仕方のないことだ。だから僕は父のように「前教えたやろ」とは怒らずに、その都度個別のニーズを実現するのを手伝う。前と同じことを訊かれても同じことを教える。祖母が一週間に一度テクノロジーを使いたくなる気持ちは尊重されるべきだと思うのだ。そして、育ててる花の名前を知りたい気持ちがあったら、それを満たしてあげたい。なんか僕にはそういうモチベーションがある。あとAndroidの中でもとりわけクソUIの機器を買い与えた(たぶん格安だったのだろう)父に対して若干腹が立っている気持ちもある。まあそれも仕方ないことか。

僕は人にものを教えるのが上手いらしい(諸説あり)。居酒屋バイトをしていたとき、新人バイトのシフト初日の日は、よく僕が一緒にシフトを入れられていた。「トロヤは教えるのが上手いから」とのこと。そのことを知ったとき、ちょっと嬉しかったかも。自分ではそんな自覚まったくなかった。

検索して多肉植物の名前(コダカラベンケイ)を知れた祖母は、名札をつくった。そして僕が帰るときに一緒にマンションを出て、エントランス横の植え込みの、同じ種類の多肉植物が生えてるところにその名札を刺した。他の草の前にも、いくつか名札が刺さっていた。祖母はマンションや近隣の植え込みに生えている雑草に、勝手に名札をつけていく活動をしているらしかった。すばらしい。

ここジャンプアクションできる。

帰ってきた。

やっぱり昨日今日と、異様に疲れている。すごく疲れている。どこにも力が入らない。立てないし、手足は内側から疼いて気持ち悪い。息を吐くと筋肉が減る。日記を読み返したら、今年の6月前半くらいに似たような体調になってた。当時は夏の始まりだった。今は夏の終わり。季節の変わり目はこうなのか? あるいは、最近起きる時刻が午前〜正午近くで朝型生活っぽくなっていることが原因かも。6月のその時期も、朝型のリズムになっていたみたいだし。当時はコンサータの副作用もあったんじゃないかとも踏んでるんだけども。

本当にできることないので、手元にあった数学の問題解く。高校のとき数学が終盤ではひたすら微分と積分になって途方もない計算量にくらくらしていたけれど、大学数学でも引き続き微分と積分は途方もなくやるのだった。でも楽し〜。フーリエ級数展開は収束半径は考慮しなくていいけれど、展開した無限級数が本当に収束するのかどうかには歴史的な議論があった。

「教えるのが上手い」と書いたが、そういえば塾講師のバイトは散々だった……。そもそも僕が塾のシステムをいつまでも理解できなかった。トラウマ。プリントがたくさん、なんか締め切りが多すぎ。

塾バイトをやれてた人たちって、本当に信じられない。なんで高校の指導要領を教えられるわけなくない。生徒が「なんでこうなるんですか?」って訊くことに、なぜ答えられる。講師側もわからない問題は多分にあるはずなのに、なんか我々には「わかりません」と言う権利が無いみたいな雰囲気があった。ハッタリ力が求められた気がする(?)。僕は数学と物理と化学を教えていたけれど、訊かれたことの半分くらいわからなかったような気がする。でも「講師にはわからないことなどない」みたいなふりをしなくちゃいけないと思って、「そうね〜これはね〜」って言いながら、冷や汗かきつつ高速で教科書めくってた。トラウマだ。

生徒が学校で受けた定期テストを塾講師が回収して、反省点と改善点を指導してあげるみたいなタスクもあった。ヒェー! 自分のシフトもまちまちななか、◯日までに生徒に学校のテストを持って来させるというのを複数の生徒について並列でこなさなきゃいけなかった(生徒によってテストの日程も異なっていた)。僕が「次回、期末テスト持ってきてね」と生徒に連絡し忘れたり、僕が伝えても生徒がテスト持ってくるのを忘れたりして、従業員に注意された。

一番辛かったのは、生徒がテストの問題用紙と自身の回答用紙だけを持ってきて、解答冊子を持ってくるのを忘れた日だ。答えのわからないまま生徒が間違えた問題について解説しなければならなかった。基礎的な問題ならともかく、その生徒の学校の教師が自作したオナニーみたいな難問まで、さもわかっているふうの顔面で解説しなければいけないのがつらかった。

勤務が終わって帰る準備をしていたら、受け持ちじゃない野生の生徒に声をかけられて「この問題教えて欲しいんですけど」と頼まれ、個別指導することもあった。全然覚えてない範囲の問題を出される。「答えある?」「答えはまだ渡されてないんですよね」キャーだった。

そのような感じで塾講師はつらすぎて、受け持ちの生徒にも申し訳なく、サーッと辞めた。自分に向いてないことがわかってよかったね。僕という例を知っているため、アルバイトの塾講師ってなかなか信用できないよなと思う。従業員はちゃんとプロフェッショナルだけれど……まあ僕は順当に辞めたわけだし、バイトはバイトできちんと淘汰されて優秀な講師が揃うようになってるのかも。

塾講師バイトをしてたのと同時期に、僕は美術予備校に(生徒として)通っていた。その時のデッサンの講師は、アルバイトだったと思うけれどみんなものすごく上手かった。放課後に一度、講師の公開デッサン会というのがあった。普段は生徒の絵に指導するだけの講師たちが、そこでは直々に静物デッサンや構成デッサンをして、生徒はその様子を見学することができた。指導者全員の実力が、隠しようなく晒される場だった。すごかった。彼らにも不安とかあったのだろうか。

眠すぎる。1時半。早く回復したい。僕には何が教えられるのだろう。お前らに、真の睡眠ってやつを教えてララ