ほほゑまし

2026 - 01 - 10

8時に起きた。おしりたんていが「失礼こかせて……」まで言ったところで、怪盗Nの罠によって放屁する前に捕まってしまった。怪盗団のアジトに連れて行かれたおしりたんていは全身を拘束され、口の部分にボールギャグを嵌められた。

おしりたんていを見ていたら遅刻した。卒業制作展2日目。

昨日に引き続き、自分のブースの内側でゲームの様子を見つつ、漫画を描いていた。時折お客さんが感想や質問を言ってくれるので、そのときは応対した。

今日はゲスト講師ら(AKI INOMATA氏、荒木悠氏、木原共氏、福原志保氏)による講評があった。各作品をゲスト陣が巡ってコメントをつけていくので、学生は自分の作品のところに待機してゲストが来るのを待っている必要があった。

講師を待っている時間に、父と祖母が見に来た。父はコントローラーを手にとって、Death the Guitarをプレイした。ステージをクリアするたびに、僕のほうを見て「クリアしたぞ」と言った。

父が遊んでいるあいだ、僕と祖母は近くの椅子に座って話していた。「何か興味ある作品あった?」と訊いたら祖母は「いいえ。私こんなん全部大っ嫌いやから」と言った。そのあと三万円くれた。「誕生日祝いと、お正月祝いと、卒業祝いね。これ私の有り金全部やから。絶対失くさないでよ。パパにもお礼言いなさいよ」

父は先日行ってきたというオーストラリア旅行の土産として、どこかのビーチのイラストがプリントされたTシャツをくれた。その後「今お前どこ住んでんの。就職はどうすんの。金あるん。生活は大丈夫なん。扶養とかどうするつもりなん」などとシステム面の質問をされた。僕は一つずつ答えていった。父は「ほん」と言った。

僕もそうだったが、結構家族を招いている学生が多かった。知っている顔の同級生が、おそらくお祖父さんとお祖母さんであろう人を引き連れて、僕の作品を彼らに解説していた。みんな意外と家族と仲いいのかな? と一瞬思ったけれど、僕はそんなに父や祖母と仲が良いともいえないのに招いているので、皆もそのくらいの温度感で連れて来てるだけかもなと思い直した。

夕方になり、講堂で公開講評会がおこなわれた。各作品を見て回ったゲスト講師たちが、クロストークするかたちで気になった作品を挙げていった。Death the Guitarも少し話題に挙がった。

2日目終わり。

昨日は大学にATMがあることを初めて知ったけれど、今日はキャンパスから徒歩10分のど近所にスーパー銭湯があることを知った。帰る前に寄った。ひとっ風(ぷ)呂浴びた。お食事処の座敷に寝そべった。もうキャンパスに来る機会は5日もないというのに、僕はまだまだ自分が通う大学について知らないことが多いようだった。

不羈奔放(ふきほんぽう)という言葉を覚えた。羈は「たずな」とも読み、不羈は「縛られない」という意味。

帰宅した。

緑色が目に優しい理由は二つあることをテレビで知った。

一つ目の理由は、緑色を見るときが一番毛様体の疲労が少ないから。眼球は受け取った光を水晶体(レンズ)で屈折させて、網膜に収束させることで視覚情報を受け取る。光は色によって波長が違うため、網膜の同じ点に収束させるためには、受け取る光の色に応じて水晶体の絞り具合を調節する必要がある。そのとき、緑色の相当する波長が一番毛様体(水晶体を絞ったり緩めたりする機能を持つ筋肉)に力が入らない。二つ目の理由はもとから知っていたんだけれど、こっちの理由は知らなかったのでなるほどと思った。

知っていたほうの理由は、錐体細胞の感度の違いによるもの。網膜が光を受け取るとL錐体、M錐体、S錐体の三つの錐体細胞が反応する。各錐体は反応しやすい光の波長域が異なり、この三錐体の反応値のブレンド結果が視覚情報として見える色を決定するのだけれど、緑色の波長については三つの錐体細胞すべてが反応するため、他の色よりも感受しやすいのだ。

まあ一つ目の理由にしても二つ目の理由にしても、「色のスペクトルの中で緑色が中波長にあたるから」というのがつまるところだね。さらに深ぼって、なぜ人間の毛様体や錐体細胞がそのように緑色を検知しやすいスペックに進化したのかといえば、それは木々のあるところには木の実や動物などの食糧があったからだと言える。緑色に親しみを持ちやすい個体ほど、生き延びる確率が高かった。

ここまでで「緑色がスペクトル上で中波長に来る理由」の説明ができた。ここからさらに「なぜ」を突き詰めるなら、次の疑問は「なぜ緑色は”あの緑色の色の感じ”なのか」になるだろうか。

父がくれたTシャツは小さくて着られなかった。そのことを、二つの「ありがとう」で主訴を挟むことでなるべく穏便に伝えた。